関西医科大学第5回市民連続公開講座

   21世紀は予防の時代 −いつまでも快適な生活をおくるために−

演 題:忍び寄る心血管病

演 者:高山 康夫(関西医科大学附属洛西ニュータウン病院循環器科部長)

座 長:栗本 匡久(関西医科大学附属洛西ニュータウン病院長)

主 催:関西医科大学附属洛西ニュータウン病院

後 援:京都市・西京医師会

日 時:平成15年(2003年)2月1日(土)

会 場:ホテル京都エミナース

 

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 座 長(栗本・関西医科大学附属洛西ニュータウン病院長) 皆様こんにちは。本日のテーマ「21世紀は予防の時代−いつまでも快適な生活をおくるために−」について詳しいことは後ほど演者2名がお話ししますが、その前にこのメインテーマの意味について少しご説明いたします。

 ご承知のとおり、我が国の死亡率のトップ3は癌と心臓疾患、脳卒中を含めた脳血管疾患です。そのうちの心臓血管疾患や脳血管疾患は動脈硬化を基盤にして発生するので、治療によってある程度予防され、また進行を抑えることが可能だと考えられています。癌に関してもアメリカでは禁煙対策が進んだ成果として肺癌の発生率が減少しているという報告もあります。

 現在日本人の平均寿命は世界一ですが、このまま続くかどうか。食生活の欧米化に伴って生活習慣病である心臓血管疾患や脳血管疾患が増加する傾向にあること、またストレスの増加等によって、最近では若い人でもこれらの疾患を発症している方がふえています。このような実情を考えると、我々医療者側はいささか疑問符を付けて見ています。ということから本日のテーマによる講演会を企画しました。

 我が国では男性より女性のほうが長生きである、このことは皆さんよくご存じです。男にとっては非常にショッキングな報告ですが、奥様に先立たれた男性の余命が約3年で、ご主人に先立たれた女性の余命が30年という興味深い報告もあります。この理由には男と女の肉体的な差異は別にして、男性はタバコを吸ったりお酒を飲むという健康によくないことをよくしていることもあります。もう一つ大きな理由として日本の男性には食事を作らないあるいは作れない人が多く、それによって生活習慣の問題が大きく関係しているのではないかと思います。

 今は非常に便利な時代で、ファミリーレストランやファーストフード店があり、デパートの地下には出来合いのおかずが売られています。飢え死にすることはありません。独身生活が十分できる環境にはありますが、おいしいものには塩分や脂肪分が結構たくさん含まれています。例えばラーメンはどうでしょうか。マグロのトロ、松坂牛に目がない方々も多いと思います。しかし昔から日本人はこういう食生活を続けてきたわけではなく、例えばマグロのトロは江戸時代では捨てられていた部分でした。食生活が欧米化することによって、トロを珍重するような味覚に変わってきていることを意味しています。そのようなことをご承知いただきたい。

 もう一方で高齢化に伴って寝たきり状態を心配する方、寝たきりだけは絶対嫌だとおっしゃる方がふえています。寝たきりになる3大原因疾患は脳卒中のような脳血管障害、痴呆、骨粗鬆症による骨折と言われております。痴呆の約半分は血管性痴呆ですから、この3つのうちの脳血管疾患と痴呆は動脈硬化を基盤として発生する以上、ある程度進行を遅らせたり予防が可能ではないかと考えております。

 前置きが長くなりましたが、こういったお話を中心にきょうは講演会をさせていただきます。それではまず高山先生から「忍び寄る心血管病」と題してお話をしていただきます。

 高山先生のプロフィールを簡単に申し上げます。昭和57年に関西医大を卒業され、循環器科を専攻されました。そしてカリフォルニア大学への3年間の留学、関西医大本院の心臓血管病センターで研鑽を積まれました。現在では日本循環器学会専門医として、また平成13年から洛西ニュータウン病院の循環器科部長として活躍しております。循環器のスペシャリストのお話をお聞きいただきたいと思います。

 

 高 山 (関西医科大学附属洛西ニュータウン病院 循環器科部長)

 ( slide No. 1 ) それではさっそく「忍び寄る心血管病」というテーマで話をさせていただきます。この後高島先生から生活習慣病についてもう少し詳しく話をしていただきます。日本人の死亡原因の中で非常に大きな割合を占めている心血管病とはどういうものか、何に注意していくべきか、についてお話しします

 ( slide No. 2 ) これは岩手医科大学の救急センターが出した資料で、cardiopulmonary arrest(心停止、呼吸停止)の状態で救急車で運び込まれてくる症例にはどういう疾患が多いか調べたものです。心疾患が過半数以上の相当高いパーセントです。続いて大動脈瘤破裂、脳血管障害などです。当然ですが、心停止、呼吸停止の状態で救急車にて運び込まれてくる症例のほとんどは心血管病で占められています。

 ( slide No. 3 ) このスライド関西医大本院のCCU(冠動脈疾患集中治療室)に入院する患者さんの原因疾患の分類です。心疾患で運び込まれる人の割合を見ると、心筋梗塞が約 1/3、不安定狭心症が約 1/3です。心臓を養う血管である冠動脈病変に起因した虚血性心疾患と呼ばれる病気でCCUに運びこまれることが多くなっています。本日お話しする心臓を中心とした血管系の病気は、このように救急医療の中で非常に大きなーセンテージを占める病気で、突然に発症し、生命に危険をもたらす重要な疾患であると思います。

 死亡原因でみても、心血管病と脳卒中などの頭の血管の病気を合わせると、癌に迫る比率です。しかもこの心血管病の死亡率はふえています。予防できる病気ですから皆さん注意していただきたい。詳細は高島先生がお話ししてくれると思います。

 ( slide No. 4 ) 動脈硬化は生活習慣病と呼ばれる高血圧、糖尿病、高脂血症などから起こってきます。もちろんこの他にも危険因子として肥満や遺伝的な素因があり、タバコを吸っていると直接動脈硬化を起こしますし、年齢やストレスなど避けがたいものもあります。このような動脈硬化から、今日のテーマの心血管病が起こってきます。先程、心臓の救急で最も多かった虚血性心疾患(心筋梗塞や狭心症など)、脳血管障害(脳梗塞や脳虚血発作など)、動脈疾患(動脈瘤や閉塞性動脈硬化症など)が挙げられます。こういった病気は生活習慣病から動脈硬化を引き起こし、その動脈硬化から皆さんの体にまさに忍び寄ってくる病気です。一度発症すると死に至る可能性がある病気であると同時に、心筋梗塞になると少し運動すると息苦しくなったり脳血管障害による麻痺などによって生活制限が出てきます。皆さんの生活のレベルを落とさないためにもこれからの高齢化時代にできるかぎり予防していきたい病気だと思います。

 ( slide No. 5 ) 心血管病のお話をする前に心臓の働きについて基本的なところから。きょうはたくさんの動画を使って説明します。心臓はご存じのように体の中心より少し左側にあって、全身に血液を送り出す優秀なポンプです。1分間に6080回ぐらい、一生の間に相当回数脈打って、血管系を通じて全身に血液を送り出します。ですから心血管系の障害は血管が張りめぐらされている他の臓器に必ず影響してきます。

 ( slide No. 6 ) では心血管病を引き起こしてくる原因疾患の一つである高血圧症はどういうふうに心臓に影響していくのか。このように動脈硬化が出てくると血圧が上がってきます。心臓は規則的に収縮していますが、この中は高血圧のために圧が上がっているので、心臓には負担となり肥大を招きます。

 ( slide No. 7 ) 実際にはこのような形で左室が肥大してくるのですが、この診断には超音波検査(エコー検査)を行います。この検査は皆さんに痛みを与えることもなく、今では簡単に肥大の様子を描出することができます。

 こちらは正常な心臓の超音波検査の画像です。左心室、左心房、ここにあるのは僧帽弁、大動脈弁です。血液は左心室から大動脈へ、そして全身に送られるので、ポンプの力が一番強いのは左心室です。正常ではこのように収縮します。

 高血圧の方が血圧コントロールをしないままあるいは不十分なまま放置しておくと、左心室の心筋が肥大してきます。正常と比べると肥大している様子がおわかりになるでしょうか。さらに治療を受けずに過ごすと、このように心筋は全周性に相当強く厚くなってきます。もちろん心臓の動きはそんなに制限されていません。これが左室肥大です。

 高血圧によってこのような左室肥大を起こしてくると、心臓のいろいろなイベントを発症するようになります。狭心症のような虚血発作になる確率は、肥大が進んだ後に相当ふえてきます。

 ( slide No. 8 ) 超音波で心臓を輪切りにした画像を見ると、正常な心臓では内側に向かって収縮している様子がわかります。これに対して高血圧になると、左室肥大という形で肥大してきます。肥大の様子はこの超音波検査の他に心電図検査でも確認することができます。超音波検査の画像から心臓の壁の厚さを計測することができるので、その厚さから肥大の程度がわかります。

 この会場にも高血圧で薬を飲んでいる方もいると思います。薬をきちんと飲んでいると、この肥大が完全にもとに戻ることは実際にはありませんが、次第に少しずつ改善してくることが確認されています。ですから高血圧の方は血圧のコントロールはもちろん重要ですが、高血圧の結果として起こってくる肥大を予防することができます。その肥大の様子も超音波検査が普及したので定期的にきちんと受診していただければ追跡することができます。肥大が強くなってくれば、高率で先程言ったような病気を招きます。高血圧の方も1年に1度、このような超音波検査で自分の心臓の状態を確認することも重要かと思います。

 ( slide No. 9 ) 血管は全身に張りめぐらされているので、高血圧になるといろいろな臓器に影響を及ぼします。その代表は腎臓です。腎臓血管の動脈硬化も高血圧が原因で起こってきます。血圧が高ければ血管の壁にいつも高い圧がかかるので、血管の壁は次第に厚くなり、血管の内腔を狭めます。このようなことが腎臓に起こると、動脈硬化のために腎臓が萎縮して硬くなり、それが再び血圧を上昇させる原因になります。スタートは単に血圧が高いだけでも、血管壁を厚くし、動脈硬化を進め、心臓の壁を厚くし、それがさらに高血圧を招くという悪循環になります。

 ( slide No. 10 )  血圧が高いままに放置しておくと動脈硬化が起こってきますが、動脈硬化とはどういうものか。動脈硬化がない方の血管の内側はこのようにきれいで、血液はすーっと抵抗なく流れていきます。いつまでもこのような血管でありたいのですが、当然年齢という避けがたいファクターがありますので、どうしても動脈硬化は進んできます。しかし、それをどれだけ先に延ばせるか、自分の生活をいつまでうまく維持できるかは重要なポイントになります。

 先程は超音波の画像でしたが、CTという方法も非常に進んできています。これはCTを使って血管の中の様子を描出しています。これも洛西ニュータウン病院のCTでできます。このあたりはきれいですが、このあたりに硬い動脈硬化巣があって、このへんは荒れてきてガタガタしています。このような硬いところでは動脈硬化がだんだん進んできています。きれいな滑らかな血管ではなく、次第にガタガタした血管になってきます。長い間圧がかかっているためにガタガタした血管が硬くなってきて、またそこに向かって心臓は血液を送り出すので、さらに圧が上がってきます。それが心臓の肥大を招きます。

 ( slide No. 11 )  今度は血管を外から眺めると、血管はこのように動脈硬化が進み、一部では血管が腫れて動脈瘤を形成することもあります。

 ( slide No. 12 )  これは胸部大動脈瘤の方の血管の像です。このあたりはきれいですが、少し動脈硬化があって、このあたりの壁は相当ガタガタしています。動脈硬化はこういう形で進んできます。皆さんも血管をCTで調べると、その様子がわかります。

 ( slide No. 13 )  ここは心臓ですが、心臓は動いているのできれいな像が出てきません。そこから出てくる血管のここが腫れています。胸部大動脈瘤です。隣の血管と比較すると、血管径がすごく大きくなっているのがわかると思います。これにはもちろん血管自体の問題もありますが、血圧を高いまま放置するとこのように血管が腫れてきます。

 ( slide No. 14 )  最初はきれいな血管でも動脈硬化になると次第に硬化して、石灰化が強くなって細くなってきます。このような動脈硬化がいろいろな病気を引き起してきます。

 ( slide No. 15 )  先程は胸部大動脈瘤を示しましたが、動脈硬化になってもう一つ問題になるのは脳梗塞です。脳卒中で命を失うことは少なくなりましたが、体の半身麻痺などを残して皆さんの生活レベルを明らかに落としてしまいます。このような病気にならないために予防が非常に重要です。

 ( slide No. 16 )  これは心臓から血栓が飛んでいく様子を示しています。心臓内血栓は血管をずっと上行して脳の末梢血管で詰まって脳梗塞に至る過程です。心臓内に血栓ができる理由の一つに心房細動などの不整脈があります。不整脈は脳卒中を招く重大な病気の一つで、脈が乱れている方、心電図で心房細動と言われる方は割と多くいます。心房細動自体が心臓をどんどん悪くするわけではなく、拍動が乱れていると心臓の中で血栓を作りやすく、それがずっと流れていって頭に詰まって結果的に脳梗塞になります。そうならないために心房細動に一番重要なことは血の凝塊を作らないことです。血栓予防薬(ワルファリンあるいは抗血小板療法)をきちんと飲むことが大切になります。ワルファリンは血を固まりにくくする薬ですから、飲んでいると歯を磨いたときに出血したり、ぶつけると内出血したりして嫌だと思うこともあると思いますが、心臓の中に血の塊を作って流れていくのを予防するためには非常に重要な薬です。もし心房細動であって薬が必要だと言われた方は、脳梗塞を避けるためにも薬をきちんと服用してください。

 ( slide No. 17 )  脳梗塞の大きな原因の一つに頸部の血管の狭窄があります。この様子はCTでもエコーでも見ることができます。これはCT像ですが、この部分が細くなっています。白くなっているのは石灰化して硬化しているところです。この方には石灰化を伴う狭窄が頸動脈にあります。CTなどでなるべく早く血管の病変を見つけて処置をする、あるいは抗血小板薬を飲むことが重要になります。

 ( slide No. 18 )  ここに病変が見えます。こちらの血管と比べて明らかに細くなっています。

 ( slide No. 19 )  胸部大動脈瘤と同様に脳血管にも動脈瘤ができます。これは脳出血の大きな原因で、死亡原因の大きなものの一つです。

 ( slide No. 20 )  原因である瘤をCTで探すことができます。CTを使って頭の中に入って血管を追いかけると、ここの血管が腫れて動脈瘤を形成しています。高血圧の方がこのような瘤を持っていると、ここが破裂してきます。動脈瘤破裂は、もともと瘤を持っている方で発生してきますが、最近では高齢化していますし、動脈硬化も進んでいて、全身に動脈硬化性の瘤も出現してきています。こういう原因になる生活習慣病をきちんとおさえていただきたい。

 脳血管をCTで見ると、非常にきれいにわかります。僕は頭のほうの専門ではありませんが、僕でもここに瘤があると診断できそうです。

 きょうは皆さんに心血管病を理解していただいて、その予防に少しでも役立ちたいと我々は考えていますが、それと同時に検査が非常に進歩したという話もしたいと思います。エコーでは針を全く刺しません。CTでは造影しますので、造影剤のための注射と点滴は要りますが、その程度でこれぐらいの検査までできます。あまりにきれいだったので脳外科の先生に頼んで画像をいただきました。脳の血管がこれだけきれいに見えると、全身の血管はどこでも見ることができるように思いますが、心臓だけは動いているので非常に難しい。この数年、心臓の血管もCTを使って見ようと本格的に研究され、一番新しい機械では心臓も描出できます。これまで行われてきたカテーテル検査は血管を見る目的では不要になりつつあります。CTで皆さんの心臓の血管を見ることができる時代がもうそこまで来ています。

 ( slide No. 21 )  わかりにくい像だと思いますが、これは大動脈弁です。心臓の出口に3個の弁があって、心拍毎に開いたり閉じたりしています。正常の大動脈弁はこのように滑らかに動いています。高齢になると弁がこのように硬化してきます。白く写っているのがおわかりでしょうか。これが大動脈弁の硬化です。正常のきれいに開いているのと比べると硬化しているのがよくわかります。これもエコーでわかります。

 ( slide No. 22 )  今度は血液の流れをカラードプラでみると、この方には僧帽弁の逆流と大動脈弁の逆流が認められます。大動脈弁の硬化によって逆流したり狭窄してくるのを、カラードプラ法で診断することができます。このように非侵襲的に、そして簡便に診断可能になり、このような大動脈弁疾患がふえてきていることが明らかになってきています。

 ( slide No. 23 )  大動脈弁狭窄症をのぞく心臓の弁膜症は症例数が減ってきています。専門的には大動脈弁狭窄症の病因にリウマチ性、動脈硬化性、先天性などがありますが、リウマチ性や感染症で併発する後天性の弁膜症は減ってきていますが、動脈硬化性の弁膜症はふえてきています。特に70歳以上の高齢者に、動脈硬化に起因する弁の石灰化による大動脈弁狭窄症が最近ふえてきています。初発症状はちょっと動くだけで息切れする、体がだるいというようなものですが、症状が進んでくると、狭心症、めまい、ふーっとなるという感じの意識消失をきたして、その後呼吸困難感や起坐呼吸(横になっていると息苦しいという心不全の症状)が出てきます。こういうことも超音波検査でチェックしていく必要があります。

 ( slide No. 24 )  大動脈弁狭窄症はこのような超音波検査で症状のない段階で発見することができますが、次第に進行ししかも進行が早いと言われています。発見されて3年ぐらい経つと79%ぐらいで症状が出てきます。こうなると突然死の可能性が増加し症状出現後には2、3年ぐらいしか生きることができないという報告もあります。

 きょうは動脈硬化の話を中心にしていますが、心臓の弁が硬くなる病気も高齢化社会であること、皆さんの生活習慣が変わってきたこと、食事の内容が変わってきたこと、運動などの生活スタイルも変わってきたことが原因となって増えてきています。皆さんもよくご注意ください。

 ( slide No. 25 )  心臓を含めた血管の病気の一番多い死亡原因はこの虚血性心疾患です。

 皆さんの心臓は今もずっと規則正しく打ちつづけています。心臓の動画をみておわかりのように、心臓は筋肉の塊ですから栄養と酸素がないと動きつづけることができません。栄養を運んでいるのが血液であり、酸素を運んでいるのがその中の赤血球ですから、心臓が動くためには心臓を栄養している血管が非常に重要です。この血管に細いところがあると十分に血液が流れませんから先に酸素が届きません。そのために狭心症という痛みが出たり、そこから先の筋肉が壊死して心筋梗塞という状態になります。

 このように動いていると生々しいですが、血管の中を赤血球が流れています。この赤血球には酸素が結合していて、心臓の筋肉に酸素を運んでいます。ここに先程と同じように動脈硬化が出ます。皆さんの心臓にもある程度高齢になれば動脈硬化が来ているかもしれません。僕は若いつもりですが、そろそろ動脈硬化が始まっているでしょう。このような形で心臓の血管も動脈硬化にさらされてきます。

 ( slide No. 26 )  狭心症と心筋梗塞の定義を示しています。心臓は筋肉の塊でずっと動き続けていますが、その心筋が一時的に何らかの理由で虚血、つまり酸素不足になります。その理由の一つが動脈硬化で、動脈硬化が進むと血管の内腔が細くなるから、そこから先に十分血液が行かなくなります。そうするとその先の心筋の組織で酸素が不足する状態になって胸が痛くなる、これが狭心症と呼ばれるものです。それに対して心筋梗塞では血管が詰まって血流が止まり、酸素が全く行かなくなって、そこから先の心筋が死んでしまいます。脳梗塞も同様に、脳血管に血栓が詰まってそれから先に酸素が行かなくなって壊死してしまいます。激しい胸痛を突然発症して心電図で診断されます。また心筋が死ぬことでそこから逸脱する酵素が上昇します。これは血液検査でわかります。

 激しい胸痛と書いていますが、高齢者では激しい胸痛を伴わない方がいます。また糖尿病の方では痛みを感じない方もいます。痛みの強さは必ずしも病気の重症度とは関係なく、すごく痛かったのに元気だったり、あまり痛くなかったのに非常に悪いということももちろんあります。痛みの強さが、重症度を示しているわけではありません。

 ( slide No. 27 )  冠動脈を造影すると、狭心症の方には血管の細いところがあって、ここから先には酸素が十分行かなくなって痛みが出ます。このように動脈硬化による狭窄によって血管が糸のようになっています。治療すれば右のように広げることができます。

 ( slide No. 28 )  狭心症は大きくは労作(性)狭心症と安静狭心症、安定狭心症と不安定狭心症という分類になっています。いつ発症したかで分類すると、動いているときに発症するのが労作性狭心症、安静時に起こるのを安静狭心症と言います。それによって病態は少し変わります。また経過から狭心症を分けると、非常に落ちついている安定狭心症と不安定狭心症になります。不安定狭心症は心筋梗塞になりやすい狭心症です。これについて説明します。

 ( slide No. 29 )  不安定狭心症は心筋梗塞になりやすく、AHA(American Heart Association)では不安定狭心症をこのように定義しています、「発作が3週間以内に始まり、最後の発作が1週間以内に起こり、しかも急性心筋梗塞を示す心電図変化や血清逸脱酵素の上昇がなく、次の3つの基準のうち1つを満たすもの」。この3つの基準というのが初発労作性狭心症と増悪型と初発安静狭心症です。

 まず初発の労作性狭心症。今まで一度も痛いことがなかったのに急に胸痛発作が出た場合。昨日胸が痛くて、その次に起こったら心筋梗塞だったという方はたくさんいます。もちろん発作には注意しないといけないのですが、このように初めて起こった狭心症には特に注意が必要です。先程痛みが強くても必ずしも重症ではないと申しましたが、しょっちゅう起こっているからといって必ずしも重症ではない。

 増悪型というのは、胸痛を自覚したときにニトログリセリンを口に含めば改善していたものが、そのニトログリセリンを使っても効かなくなる、いつもの薬をきちんと飲んでいるのに発作の回数がふえてくる、発作の時間が長くなるなど、だんだん悪化の様相を呈している場合です。

  安静時に発作が起こった場合も危険です。誘因として動いて痛くなる労作性狭心症の方が、安静時に胸痛が出現するようになれば注意が必要です。じっとしているのに起こってきたという方は病院に行ってよくご相談ください。

 ( slide No. 30 )  動脈硬化により冠動脈が細くなっているところが狭心症の原因ですが、このような場合にはここにカテーテルを入れて風船を膨らませて、動脈硬化で細くなった狭窄部位を広げることで治療することができます。狭心症の症状に思い当たる方は病院で診察を受けて、必要な場合にはこのような処置を受けることもできます。

 ( slide No. 31 )  このようなことに十分気をつけていても心筋梗塞は起こる可能性があります。心臓の周りに心臓を養っている冠動脈があり、この血管が詰まればこういう形で壊死してきます。この血管ではここが、ここの血管ではここが壊死してきます。こういう形で、血管が閉塞するためにその先が壊死することを心筋梗塞と言います。

 ( slide No. 32 )  健常者の心臓をエコーで見るときれいによく動いています。これが正常な左心室ですが、心筋梗塞になると、この方の場合にはここの血管が詰まったので、ここが動いていません。この場所が心筋梗塞を起こすと動かなくなります。

 ( slide No. 33 )  違う方向から見てみます。健常人の正常な心臓はよく動いていますが、この方の場合にはここの壁が動かなくなっています。心臓が毎日正しく動くように、心筋梗塞にならないようにするには、生活習慣病を予防して動脈硬化にならないことが重要になってきます。

 今までの話からすると、心筋梗塞は動脈硬化で血管が細くなって、ついに詰って発症するだろうと思われます。詰まる寸前には症状があって、治療するとよくなると思いますが、実際にはそう思って治療していても心筋梗塞の予防はなかなかできませんでした。細いところを見つけてはカテーテルで広げていけば心筋梗塞がなくなってもいいわけですが、実際にはそうではない。その理由が最近わかってきました。

 ( slide No. 34 )  心筋梗塞は急性冠症候群という概念で発症すると考えられています。生活習慣病のために血管に動脈硬化が起こってきます。これは石灰化することで白く硬化するのと違って、もっと柔らかい動脈硬化巣です。これをプラークと呼びますが、血液中のコレステロールが高い状態が続くと血管壁(血管内皮)にコレステロールが溜まってプラークを形成します。これは柔らかいので何かのはずみで破綻します。そうすると血管壁が傷つくので、ここの修復機転として血小板が集まって血栓を作ります。この血栓が血管を塞ぐほどに大きくなると心筋梗塞が起こると考えられています。ですから初めて胸が痛かった人は気をつけてくださいというのはその時点でこのプラークが破裂したと考えられるからです。また詰まりかけて、また開いて詰まりかけてというのを繰り返しているのが不安定狭心症だと言われています。ですから今まで示してきたような、動脈硬化がだんだん進んできて細くなって起こる狭心症はむしろ安全とも言えます。

 どうすればプラークの形成が予防できるかというと、まず一つにはコレステロールのコントロールです。またできてしまったコレステロールリッチなプラークが破綻しないようにするにも、コレステロールをきちんとコントロールすれば安定化してきます。もう一つのポイントは破綻したところに血栓が形成されることが発症の原因ですから、血の塊を作らなければ良いわけです。そのために抗血小板薬が使われます。循環器、特に心臓を専門にしている者は心臓の動きをよくすることばかり考えていますが、実はそれとは全く関係のないコレステロールを下げる、血の塊を作らないようにすることが非常に有効だということがよくわかってきました。コレステロールの薬をきちんと飲んでいると、心臓の病気を起こす確率はぐんと減っています。また抗血小板薬を飲んでいると、血栓を予防して狭心症があっても心筋梗塞になることを予防できます。これらの薬は予防薬として非常に重要な薬ですので、きちんと飲んでください。

 ( slide No. 35 )  これを文字でまとめると、冠動脈のプラークの破綻が最初に起こります。これが引き金になってそこに血栓が付着してきます。この血栓で血管が完全に詰まったときが急性心筋梗塞、血栓が付いて、流れて、付いてを繰り返しているが不安定狭心症だと考えられています。だから今は心筋梗塞も不安定狭心症もまとめて急性冠症候群 acute coronary syndromeと言います。これを予防するには血栓が重要な鍵を握っています。血栓の予防が一つには重要です。血液をさらさらにする薬という説明で処方されていると思います。

 最初に心臓と呼吸が止まった状態で救急センターに運び込まれてくる人の多くは心疾患であり、その中の多くは虚血性心疾患だということをお話ししました。このような急性冠症候群の多くはこの機序で起こっていて、これが原因となった心臓突然死の割合は相当高いだろうと考えられています。実際にコレステロールを下げる薬や抗血小板薬などをきちんと飲んでいるとこの突然死が少ないことも証明されています。

 ( slide No. 36 )  超音波検査(エコー)とCTで今は相当細かく、心臓の動き、どこが悪いのか、どこの血管に何があるのかまで描出できます。こういう診断が入院しなくても外来で簡単に受けることができる時代になって、皆さんはラッキーかもしれません。このようにしっかり動く正常な心臓を皆さん大事にしてください。

 ( slide No. 37 )  きょうは嫌になるほど心臓のエコー像やCT像を見ていただきました。当院では心血管病予防を目標に生活習慣病の治療を進めていきたいと思います。

 ( slide No. 38 )  うちのスタッフです。続いてこの先生に生活習慣病の話をしていただきます。どうもご静聴ありがとうございました。

 

 座 長  高山先生、ありがとうございました。話が難しかったかもしれませんが、ご質問があればお聞きします。

 質 問  たいへん勉強になりありがとうございました。急性の心筋梗塞の疑いがある場合、ヘパリンを投与されると思いますが、高齢者でその疑いがある場合の投与にはどのような注意が必要ですか。ヘパリンの投与を開始すると、どういう頻度でどういったことをチェックしながらその投与を続けていかれますか。

 高 山  特にお年寄りの方で出血の問題を心配されてのご質問だと思います。心筋梗塞の主な原因として血管を閉塞する血栓が問題になります。急性期では、その後の血栓形成予防のためにハパリンを相当量使います。その方の状態によりますが、数時間間隔で採血してチェックしていく必要があります。当院では緊急採血が24時間体制でありますのでそれをチェックできますが、基本的には心カテーテルによる検査もこれによる治療もしていませんので、ヘパリンでずっと経過をみる患者さんはそんなに多くありません。ヘパリンを投与する際には特に高齢者の方では出血に対する注意が必要です。急性期には数時間の単位で経過をみていきます。

 質 問  採血で何を具体的にチェックされていますか。

 高 山  APTT(活性化部分トロンボプラスチン時間)、凝固系のチェックです。

 座 長  かなり専門的な質問でした。それでは休憩にします。