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関西医科大学第4回市民連続公開講座
「顔から手足までの形成外科−ここまできれいになる−」
小川 豊(関西医科大学形成外科学教授)
平成13年(2001年)11月17日(土)
関西医科大学南館臨床講堂
司会 西川 光重教授(内科学第二)
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司 会(西川 光重・関西医科大学内科学第二・教授)  お二人目は小川豊先生からお話をうかがいます。私の理解では形成外科学は比較的新しい領域で、先生は本学の初代の教授で形成外科学を立ち上げられてご活躍中でございます。京都大学医学部を昭和39年に卒業され、専門分野は眼形成、顔面再建、ケロイド、皮膚腫瘍でございます。

 本日のテーマは「顔から手足までの形成外科−ここまできれいになる−」ということで、私を含めて皆様も聞きたいところが多いかと思います。それでは小川先生、よろしくお願いします。

小 川(関西医科大学形成外科学教授)
 高橋先生は難しい病気のお話をされましたが、私はどちからと言えば病(やまい)と表現したほうがいいかもしれませんが、そういうお話をこれからスライドをたくさん使って私どもがやってまいりました仕事を紹介しながら、形成外科がどういうものか知っていただきたいと思います。

 題名が少しオーバーな表現になってちょっと恥ずかしいのですが、一つお断りしておきます。患者さんの顔がたくさん出てきます。眼を隠した症例もございますが、眼に近いところを再建した症例あるいは顔全体の印象を見ていただく症例では近所の方が出ているかもしれません。この場はアカデミックな場ということでお許しいただいて、ぜひプライバシーだけは守っていただきたいと思います。(以下、括弧内の数字はスライド番号)

 (1) 形成外科が主に使います皮膚はすなわち着物に相当する機能を有しています。昨今、着物は寒いから着るとかあるいは野獣に噛まれるから着るとか、非常に機能的な意味で着ている場合よりおしゃれ的要素が非常に強いということがこの写真でもわかると思います。(2) そういう大事な着物に墨が付きますと、ふだん着でも使うことができません。もちろん防寒という意味では使うことができるかもれませんが、恐らく 100人のうち99人はこの着物を洗濯に出すか洗濯できないものはもう使われないと思います。

 (3) 皮膚にとっても同じようなことが言えます。ここに赤いアザがありますが、この赤いアザは特に癌でなければこの方の命を落とすことはございません。あるいは手の動きが悪くなることもありません。しかし本人にとってはちょうど着物にシミがついたように非常にこのもの自体は病の原因になります。

 (4) 皮膚の主な再建、すなわち治し方には仰々しいのですが、このような方法があります。

 遊離植皮、有茎弁植皮、遊離皮弁という3つがあります。平たく言いますと、どこか遠くから取ってきた皮膚をぺたっと張りつけるのが遊離植皮になります。有茎弁植皮はその皮膚のどこか一部分がくっついたまま動かします。ですからこの方法は紐付きになりますので、動く範囲が狭くなります。そこで動く範囲を大きくするために紐の部分である血管を切り離して、そして遠くへ持っていって顕微鏡下でつなぐというのが遊離皮弁です。この遊離植皮は薄い皮膚しかできませんが、有茎弁植皮は厚い皮膚が移動できます。遊離皮弁は有茎弁と同じように厚い皮膚、あるいは筋肉や骨も一緒に移動できる利点がございます。

 (5) まず簡単な形成外科の症例を紹介します。これは見たとおりのホクロです。(6) こういうふうに切って、ここに少し傷がありますが、遠くからはわかりません。(7) これもホクロ、いわゆる色素性母斑ですが、このようにあまり黒くなくても鼻や口の周囲が盛り上がってきます。(8) これを電気で焼くと、ホクロは目立ちません。

 (9) しかし大きなものになると、切り取ったり電気で焼くだけでは瘢痕が目立ちますので、(10)すぐ隣に皮膚を作りまして、この部分がくっついています。先ほど表で示しました真ん中の有茎弁という方法で再建します。(11)皮膚を起こして、このへんはくっついています。(12)こうしますと、ここの部分は縫い寄せられる範囲しか取れませんので少し残っていますが、(13)数カ月してその部分を切り取ります。ここは少し傷が残っていますが、この程度に治すことができます。

 (14)大きくなりますと、(15)揉み上げの部分は取り除くと毛がなくなるので、正常の毛がある皮膚を有茎弁という方法で再建します。(16)植皮する皮膚を作って、(17)この部分は毛があるところを下ろしてきて、ここは遊離植皮をしています。時間が経ちますと、この部分を切り取っております。(18)約1年後です。これが揉み上げの部分で、上が頭です。この耳も植皮をして、この部分は植皮をして少し残っています。

 (19)大きな色素性母斑、いわゆる黒アザではしばしば毛が生えております。(20)こういう場合はまず腕の半分を植皮します。腕の向こう側が残っています。一度に全周をしますと、植えた皮膚が少し拘縮というか、細くなりますので、循環不全を起こさないように半分ずつ行うのが常套手段です。

 (21)しかし背中のような大きなところでは、大きなアザでも(22)植皮をせずにできるだけ切り取ります。1回目でアザの部分がこれだけ残っています。皮膚を思いっきり取っているので、テンションが強くてまだ汚い傷になっています。1年ぐらい経ってもう一度切ると、(23)アザの部分が取れます。この傷が汚いのとまだ少し残っていますので、もう一度切ります。(24)このようにして3〜4回切りますと、場所によっては植皮をしなくてもこの周辺の皮膚が引き延ばされて、ちょうど妊娠したときのお腹のような状態になります。そういう方法で切り取ることが可能です。ところがこういう方法では1年も2年もかかりますので、皮膚をもう少し早く延ばす方法を後で述べます。

 (25)このような巨大母斑は植皮をするにしても引き延ばすにしても限度がありますので、人工皮膚を使います。今のところ完全な意味の人工皮膚はありませんが、人工真皮という皮膚の下の部分だけは人工的なものがあります。(26)その皮膚からアザを剥がして(27)人工真皮を貼ります。2週間ほどすると自分の真皮を作る細胞がこの中に入ってきます。これはブタで作った材料ですが、これが溶けてしまって置き変わるという状態になります。(28)その上に薄い皮膚を植えます。この皮膚は薄い皮膚なので、皮膚を取ったところがあまり傷にならないし、そこから何回にも取れるという利点があります。これが人工真皮を使った再建方法です。

 (29)この方は赤アザです。昨今出てきましたレーザーでもこの場合は治療できません。(30)皮膚の下に組織拡張器という風船みたいなものを入れて、約2カ月ぐらい徐々に膨らませて皮膚を延ばします。これから後、この組織拡張器を使った症例が頻繁に出てきます。(31)この方法でこの部分を再建します。またこの部分は下の皮膚を引き延ばしています。この方は7、8回手術をしています。(32)ここは植皮で、ここは傷が残っていますが、自分の皮膚だけで再建できた症例です。

 (33)これは同じアザでもイチゴ状血管腫 strawberry markと言いまして、少し盛り上がってくるのが特徴です。目の周囲によく出ます。生まれて2週間ぐらいするとこれぐらい出てきます。1カ月で急速にこのように広がってきて、目の周囲にできると瞼が閉じてしまいます。赤ちゃんの場合、2週間ぐらい目を閉じたままにすると、光が入らないため廃用性弱視になります。この赤ちゃんは実は古い症例で、そのケアをしなかったために弱視になっています。(34)イチゴ状血管腫は3〜4歳で自然に消えてしまいますが、しかし2週間や1カ月で消えませんので、目に光を入れることが重要です。これは生後6カ月目で、少し開いています。(35)5歳ぐらいでだいぶ開いていますが、斜視もあり弱視になっています。こういう状態からきれいにする手術はできますが、それまでに光を当てる治療が絶対的に必要になります。

 (36)私たちの分野のレーザー治療はどんな疾患を対象とするかという話をします。(37)レーザーと電気で焼く方法と違うところはターゲットになっている病変にレーザーのエネルギーが選択的に吸収されるという利点があります。例えば赤いアザは色素ですし、黒いアザはメラニン色素です。毛細血管の中の色素、黄色の色素、入れ墨に使われる色素など、いろいろな色素の波長に合わせると選択的に吸収されます。絶対的ではありませんが、比較的そのターゲットにエネルギーが吸収されて、その部分が破壊されます。

 (38)例えばこの赤いアザに色素レーザーを(39)5、6回当てると、少し残っていますが、ほとんど瘢痕程度傷を残さずに治ります。(40)これは太田母斑という思春期にこの場所に好発するアザには(41)キュウースイッチルビーレーザーとかキュウスイッチアレキサンドライトレーザーなどを使って10回ぐらい当てると、根気が要りますが、傷が残らずに治療できます。これがレーザー治療の最大の利点です。(42)これは唇に色素があって消化管にポリープをみる病気です。ポリープは消化器の先生にまかせて、こういうものには炭酸ガスレーザーを使います。(43)これが術後です。(44)このようなデコボコしたものは表皮母斑と言いますが、これも炭酸ガスレーザーの対象になります。(45)色がちょっと抜けていますが、デコボコは取れます。(46)ここに「真」という字の入れ墨があります。1回レーザーで取って薄くなっていますが、これもキュウスイッチルビーレーザーで取れます。(47)最近少しはやってまいりました脱毛レーザーです。腋毛です。(48)永久脱毛とよく電車のつり広告とか雑誌に載っていますが、正直なところ永久脱毛ではありません。何年かすると、うぶ毛が生えてきます。場所によっては永久脱毛に近く生えてこない場合もあります。

 (49)頭部前額再建。部位別に症例を紹介します。まず頭です。(50)これは脳外科的な手術をして骨が欠損して、人工骨が入っています。これはどうしても感染とか外傷に弱くて、露出してきます。いったん露出すると抜かないといけないので、(51)抜くとこのようにへっこんでしまいます。(52)レントゲンでこのように黒く広範囲の骨欠損像が見えます。(53)そこで肋骨を2本取ってきて半切すると4本できます。頭蓋骨は内盤と外盤という2層構造になっているので、外盤を少しはずして隙間はありますが、自分の骨で埋めます。(54)そうするとへっこんだ部分が回復します。

 (55) 顔面再建。(56)これは自動車の下敷きになってマフラーで火傷をしたのと挫創が混じった熱圧挫創です。深い傷ができます。(57)これを切り取って(58)いったん植皮をしてその間に組織拡張器で膨らませて、(59)有茎弁の手法で皮膚を引き延ばして植皮します。(60)この方には広範囲な火傷の瘢痕があります。首がカーテンのようになってきれいな輪郭ができておりません。(61)これは遊離植皮をしています。(62)術前を横から見ると、顎がありません。(63)手術をして顎をずらして顎を作ります。(64)この方は顔全体を炎で火傷して目も閉じにくく、眉毛も鼻もありません。唇も外反してめくれたような状態になっています。(65)まずここに植皮をします。その後ここの皮膚を有茎弁の手法で鼻を作りまして、眉毛を植毛します。この部分には植皮をして、瞼や唇の外反部分や鼻を再建しています。

 (66)目瞼再建。(67)これは目の悪性腫瘍です。メバチコと思っているとなかなか2カ月も3カ月も治らなくて、だんだん大きくなってきます。高齢者ではマイボーム腺癌を疑います。これがマイボーム腺癌です。(68)ちょっと広いめに瞼を取ります。(69)これは瞼全層、つまり結膜も取りますので、ウサギの眼みたいに丸くなって閉じることができません。(70)下瞼をこのように切りまして、これを(71)くるっと翻転させて1週間ほどするとここを切り離します。下瞼はこのへんの皮膚と口の粘膜で再建します。こういう面倒くさい方法ですが、マスタード法と言います。

 (72)下の瞼はこのへんの皮膚を使っていて睫毛がありませんので、植毛しています。(73)この眼はこのように閉じることも可能です。(74)この方は焼夷弾か何か、戦時中の傷で眼球を摘出しております。(75)義眼を入れていますが、このように健康なほうとはだいぶ見た目が違います。また義眼球のために人の前で目が落ちてしまうという困ったことがあって、(76)いろいろやりまして、目が落ちないように、また似たような形にします。これが義眼鞘再建です。

 (77)同じように悪性腫瘍を取った後、このように目が非常に変形して眼球もありません。(78)横の皮膚を使って有茎弁の手法で(79)これをこちらに持ってきて再建します。(80)まぶたを作って義眼鞘(義眼を入れる袋)を作って二重まぶたにして再建します。 (81) この患者さんは若い患者ですが、この部分に肉腫ができて眼球とこのあたりの皮膚を取り除いています。(82)やはり義眼を入れています。この眼は決して見えるわけではありませんが、義眼を入れて quality of lifeを向上させようというものです。

 (83)この患者さんは目に脂肪肉腫という悪性腫瘍ができています。目と鼻が交通してくしゃみをすると鼻水が目から出て来るという方です。(84)顔全体もへっこんでいるので前鋸筋皮弁で再建します。(85)このへんには前鋸筋が入っていて、義眼鞘を再建して眼の高さも同じようにします。

 (86)この患者さんはデフリン・ハウゼン氏症で、顔全体が腫瘍です。(87)この病巣を取り除きまして、骨にも病変があります。(88)前腕皮弁。手から皮膚を取ります。これは遊離皮弁で、皮膚に血管を一緒に取り付けて顔に移動させます。顕微鏡下の手術になります。(89)これをこちら側に移植します。(90)手の皮膚は顔の皮膚とはきめと色合いが違うのですが、きれいすぎるというきらいがありますが、義眼を入れるために義眼鞘を作って眉毛を植毛します。

 (91)顔面外傷。顔面外傷では特に交通事故が多いのですが。(92)例えば形成外科とそうでないところとでは縫い方の細かさが違います。この方はまず形成外科でないところで縫っていますので、縫い目の幅が広く、しかもきゅっと縫っています。(93)1週間後、糸を抜いてもムカデの足のような痕跡が残ります。(94)同じように交通事故に起こして形成外科に初めから来られると、細かいナイロン糸で縫いますので、(95)特に何も手術をしなくてもムカデの足のような跡が残りません。仮に手術をしても非常にしやすい。ぜひ最初に形成外科に行かれるのが得策ではないかと思います。

 (96)これも形成外科でないところで縫ったのでムカデの足になっています。こういう患者さんはよくおられますが、最近はシートベルトが普及して少し減りました。(97)形成外科で傷を縫い寄せて、この程度に修復できます。(98)この患者さんも交通事故で瘢痕のために眼が塞がれています。(99)まだ全部仕上がっておりませんが、このへんも治していきます。(100) この患者さんも交通事故で、顔がめくれて骨が露出しています。(101) 絆創膏を貼って目尻を引っ張っています。これは手から皮膚を持ってきていますので顔と色が違いますが、頭から治す必要があります。(102) この方も交通事故です。(103) 縫いなおすとこういうふうになりますが、やはりこれでは仕事に復帰できません。この方は眼も見えません。(104) それで傷をきれいにして、義眼を入れます。

 (105) 植毛。先ほど毛の話をしましたが、(106) 人間の体には毛がありますが、いわゆる剛毛、髪の毛とか眉毛、髭などの毛がなくなると目立ちます。この方はここに黒いアザがあって、これを取り除くと眉毛がなくなりますので、(107) 耳の後ろの髪の毛の生え際、境目あたりから取ってきて(108) 植皮をします。この辺が髪の毛で、このへんが毛のないところです。(109) それから1本ずつ植えるという方法もあります。後頭部から毛を束で取ってきて、(110) それを1本ずつに分けます。1本の毛でも先は2本になったり3本になったりしていますが、これを田植えのように植えます。(111) 例えば眉毛の外側が少ない人は、(112) こういうふうに植えます。(113) 若禿げの人のこの部分に(114) 植毛します。1本ずつ植毛するのは面倒ですが、毛をある程度好きな方向に向かわせることができる利点があります。(115) 眉毛でもこの場合には(116) 残っている眉毛を使った再建方法です。上下2つに分けてその一部をこちらに移動させています。(117) その部分だけ眉毛が少し細くなりますが、(118) 眉毛を眉毛で再建していますので、毛の並び、毛の伸び方では非常に自然な外観が得られます。(119) 花火で睫毛がなくなった患者さんには(120) 眉毛の一部を取って、やはり有茎皮弁という方法で、ここからここまでトンネルを作ってくぐらせてて、(121) このように再建します。ここに傷がありますが。

 (122) 外鼻再建。これは鼻の外から見えている部分です。(123) 例えばこれはホクロではなくて悪性黒色腫という恐ろしい腫瘍ですが、(124) これを骨が見えるぐらいに切り取って、(125) 頭のこの部分は鼻を作るのに非常に硬さと色合いがいいので、この部分を使います。頭の皮膚が象の鼻のように見えますが、2週間経つとこの必要な部分だけを切り離して、この部分を戻します。(126) 必要な部分を切り離して、(127) いろいろなことをしてこの部分を再建します。この部分は実はここから取っていますので傷が残っています。ここには別に組織拡張器を入れてまた皮膚の延ばして隠すことができます。

 (128) この方はやけどで鼻がなくなって、鼻中隔もなくなっています。(129) これも同じような方法で、ここの皮膚を取ってきて移植します。(130) これは実は耳の奇形です。これぐらいしか残っていません。(131) 私どもは肋軟骨を使って耳の形を作ります。聴力には関係ありませんが、眼鏡をかけたりマスクをかけるのに耳介は必要です。(132) 唇裂は生まれつき唇が割れている病気で、(133) これも私どもの専門領域です。術後です。ここに傷があります。

 (134) 唇のところに黒い塊が2カ月、3カ月あると注意しないといけないのですが、唇のこういうところには有棘細胞癌という皮膚癌が非常にできやすい。(135) その患部を取り除いて、舌と歯茎が見えています。口の中が見えるまで取り除きます。(136) ムラウチといって粘膜側を作って、皮膚側も作らないといけないので2枚の皮膚を貼り合わせることになります。粘膜側はここの皮膚を使います。(137) 表側は首の皮膚を引き延ばして使います。(138) これが術後です。(139) この方も同じで有棘細胞癌です。(140) これだけ切り取って、頸動脈が見えています。(141) これも再建したところですが、なかなか再建は難しい。とにかく閉鎖をしないと食べられない、しゃべれないのでこういうふうにやります。(142) しつこいようですが、これも同じような皮膚癌です。(143) この方はこれだけ切除しました。(144) 上唇を使っています。先ほど眼のときに上瞼を下瞼で再建しましたが、それと似たような方法です。(145) これは上の唇を下に持ってきます。(146) 当然口が小さくなりますので、それも後で広げる手術をしました。これだけ上から下に移った分です。

 (147) 舌再建。(148) 舌癌は私どもの守備範囲です。(149) 舌を半分切除して(150) 先ほど腕から皮膚を取っていましたが、それと同じ方法で再建します。ですから舌の半分は腕の皮膚で作られています。

 (151) 食道再建。(152) 外科で食道を切除した後、空腸を食道代わりにして血管をつないで再建します。(153) 空腸は傘の柄のような形で取れますが、(154) レントゲンではこういう形をしています。ここの間隔が広いので普通横に幅広くなります。

 (155) 外科領域。(156) これは突出臍(でべそ)ではなくて臍ヘルニアです。でべそと臍ヘルニアとの違いは臍ヘルニアはおへその部分の腹直筋鞘という強い鞘の孔が非常に大きく残っていて、腹膜を被った腸がヘルニアになって飛び出してくるのが臍ヘルニアです。でべそは大きな窓はなくて、ただお産をしたときにへそが少し長く残ったものです。(157) 孔を塞いで臍ヘルニアを治療します。(158) 横から見ると膨らんでいます。術前です。(159) 術後です。(160) 外科領域ではその他に腹壁ヘルニアがあります。腹壁には腹直筋とかいろいろな筋肉が入り交じっていますが、その筋肉が弱かったり欠損したりすると、腹壁の中側が弱くなって腸がずっと下がってきますので、非常に気分の悪い病気です。(161) 薄筋のような足の筋肉や外側の靱帯を使ってここをカバーします。その上に人工物のマージネンネットを張りつけて補強しています。(162) 術後です。前のように膨らんでいたのが(163) 横から見ると、このようにすっきりしています。(164) これは漏斗胸という生まれつき胸がへっこんだ胸郭の奇形ですが、4〜9歳ぐらいの間で手術するのがいいようです。(165) これはラッキョ法といって、へこんだ部分の軟骨を全部取り除きます。軟骨膜を残していると再び軟骨ができますので、これは取り除いてしまうだけでいいんです。(166) これが術後です。(167) 最近はナスホールという別の方法があります。

 (168) 乳房再建。乳癌の後の再建をご紹介します。(169) 乳癌の後を(170) 放っておいてもいいのですが、本人は温泉に行けないとか皆さんと一緒にプールに行けないという悩みがあります。これは腹直筋皮弁をします。筋肉と皮膚を移すデザインです。(171) とった後を縫って修復します。(172) ちょっと大きめに作っていますが、乳頭と乳輪を再建します。(173) 乳頭と乳輪は皮膚を十字型に切って、これを(174) つまみ上げるようにして、周囲に残った傷口に植皮します。(175) このようにして乳首と乳輪ができます。(176) 例えば生まれたときにほとんど痕跡のような乳首しかない、乳房がないターナー症候群があります。(177) 今の方法で乳首と乳輪と、これはバックホウテンイと言いますが、そういう再建をしています。(178) 逆にこのように乳房が大きいと肩がこったりしんどいという訴えもありますので、(179) 乳房を小さくする手術もします。高齢の方に多い。

 (180) 四肢再建。(181) 合指症には(182) 私どもで開発した簡単なピンサー、圧迫をする道具があります。(183) これをこういうふうに押さえて圧迫しておくと皮膚が延びて(184) 従来植皮をしていた皮膚を植皮せずに分けることができます。(185) ミトンハンドというミットのような指も(186) ほとんど植皮せずにできます。

 (187) これは切断肢指です。指を切断されますと、この指先部分は清潔なナイロンは家庭や工場にはないと思いますが、普通のナイロン袋で結構ですから、袋に入れて、それをゴムで水が入らないようにしっかりくくって、その袋を氷水に漬けて持ってきてください。指先を直接氷水に入れると浸透圧の関係で変なことになります。まずこれをナイロン袋に入れて密封してそれを氷水に入れると、6時間後でも8時間後でも大丈夫です。そんなに急いでいただかなくても。うちで今までで一番長い例では36時間というのがあります。若い女性が指を落として病院に駆けつけたのですが、「指先をどうしたのか」と尋ねると、「ややこしいところで、見つかりません」、「では探してください」。随分探してくれて、20時間ぐらい待ってそれで生着しています。ですから処理さえ間違わなければ、そんなに急がなくても結構です。(188) これをつないで握っているところです。

 (189) 足の裏にホクロができると癌ではないかとびっくりします。確かに日本人で足の裏にホクロができると危険です。この末端黒子型黒色腫を含めて悪性黒色腫には4つの種類があります。初めはホクロのような薄いものでが、これだけ大きくなってきます。これは手遅れに近いのですが、(190) 靴をはかないといけないので、この土踏まずの皮膚をこちら側に移動させます。(191) 面倒なことですが、かかとを後ろにもっていって、(192) 有茎皮弁で体重のかかるところを再建します。土踏まずには体重がかかりませんので、遊離皮植皮をします。(193) 術後1年です。

 (194) 熱傷。(195) 一言で言えば熱でやけどをしますが、こじれますと瘢痕になります。もちろん瘢痕になるのもありますが、うまくいけば正常な皮膚と同じように治ります。こじらすとこのようになります。こじらせる原因としては感染とか全身的な糖尿病、腎不全、低タンパク栄養などがあります。その他に動かすと具合が悪い。(196) まず卵で比べてみます。こちら側は煮抜きしてすぐに冷たい水の中に入れます。こちらはそのまま冷ませたもので、固まっています。人間の皮膚はタンパク質ですので、できるだけ早く冷やせば半熟で済みます。ですからII度熱症が III度熱症にならないようにするためには、まず早く冷やす。子供がやけどをした場合、脱がすのに大変慌てて時間がかかるので、まず着物の上から水を流して冷やします。そういうことが大事です。

 (197) そのときに水道の水は汚いのではないかという心配は全くいりません。しかしこのように傷ができますと植皮をしないといけない。(198) これは植皮をした跡です。(199) このように範囲が広くなると1枚の皮膚では足りないので、(200) これを網目にして(201) 引き延ばすと、3〜6倍くらいの面積になります。(202) これを使います。(203) またケロイドではないのですが、肥厚性瘢痕になると手術ができる場合とできない場合があります。範囲が広くて手術ができない場合は(204) サポーターで圧迫をします。(205) このようにコルセットをすると、(206) かなり偏平化します。まずこれをやってみます。(207) これはやけどで曲がった肥厚です。(208) 切り離して、足の裏の皮膚から植皮します。(209) 足の裏の皮膚を植皮したところです。

 (210) ケロイド体質とは何か。(211) 先ほど肥厚性瘢痕と言いましたが、本当にケロイドとはどんなものか。やけどもしていないし傷もないのに胸なんかににこういう形のものができて、痛くて痒くなります。このような茶色の蝶々のようなものができるのがケロイドです。(212) ケロイドは胸、こういう体の人、上腕の肩のちょっと下の腕にプツプツとおろしがねのような毛孔性苔癬という人にケロイドができやすいことがわかっています。(213) できやすい場所はピアスをするところ、こういうところ、こういうところです。こういうところにはケロイドはできません。(214) 例えばピアスの跡ですね。(215) 外陰部。術後にこういう傷ができますと、ここだけできます。(216) 治療は(217) 切り取って放射線治療を必ずします。そうでないと再発します。(218) これも放射線治療をすると、(219) 白くなります。

 (220) しかしケロイドでないものは手術をするだけで放射線治療は要りません。(221) これは術後です。

(222) 先ほど何回か言いました組織拡張器 tissue expanderです。(223) これはこういう風船で、これを全部皮膚に入れて、ここに針を刺して風船に生理食塩水を入れてだんだん膨らませる簡単なものです。(224) このようなところに付けて(225) 妊娠をしてお腹が大きくなるのと同じで、(226) 皮膚が延びてその余裕ができれば切ります。(227) 例えばここですね。(228) こういうふうに膨らませて、(229) 前から見るとこうなります。(230) この瘢痕を切り離して膨らんだところを移植します。(231) これが術後です。(232) 同じようにここに茶色のアザがあります。(233) ここを膨らませて、(234) こちらへ延ばします。

 (235) 外陰部再建。(236) 外陰部の赤いものは慢性湿疹にちょっと似ていて間違いやすいのですが、3カ月も4カ月もステロイド軟膏を塗っても治らない場合、悪性腫瘍を疑います。(237) パージェット病の中のニューオーライパージェットというのがここに好発します。悪性腫瘍ですから切除しないといけない。(238) こういうややこしいことをして、(239) 再建します。術後です。パージェト病はもともと乳房にできる病気ですが、乳房よりもむしろ外陰部が多くて、稀に腋窩。つまりアポクリン腺のできるところにできます。(240) これはパージェット病ではなくて、ある事情でペニスが瘢痕性に変形して、ズボンから排尿ができない患者さんです。ペニスを長くする手術をします。(241) 瘢痕を取り除いて長くして植皮をします。(242) そしてハイオーバというドレッシングを一週間使います。(243) これが術後です。(244) この患者さんはペニスに孔が開いて尿道が露出しています。(245) これも不都合ですので治療をして再建します。(246) これは16歳の男の子ですが、矮小陰茎という生まれつき陰茎が小さい病気があります。(247) これも手術的にリフォームします。(248) 女性では逆に陰核の大きい方がいますが、(249) 小さくします。(250) これは特殊な病気ではなくて、よくあるので取り上げました。 Rechlinghausen 氏症です。(251) この方は30歳近い方で、この病気を10年以上持ったまま、どこの施設に行けばいいのかわからなかったという方です。2kgぐらいあります。(252) これを切り取って(253) 横から見るとこんな具合です。(254) 切り取った術後です。(255) 顔にはこういうものができます。(256) 術後です。

 (257) Contour Surgeyというのは輪郭をきれいにするための手術です。(258) 顔面半萎縮は思春期の女性に多く、顔が痩せてくる病気です。(259) 脂肪を入れてふっくらさせます。(260) 鷲鼻の人は(261) 骨を削る手術して(262) まっすぐにします。(263) この人も鷲鼻ですが、顎が小さくて、これを出したいという問題があります。(264) ここの骨を少し切って前にずらします。(265) 術後です。一般的に美人の要素は鼻先と顎先を結んだ線が唇に触らないというのがあります。ですから鼻が高いか顎が出ていると唇が触らない。この方の場合は顎を出しました。(266) この方は long faceですね。顎を後ろに下げました。(267) しかも上顎を少し前に出しています。(268) 歯の咬合も悪くなるので、これは形だけでなくて咬合も治しました。術前と術後です。こういうことは口腔外科や歯医者さんがやるのではないかと考えられますが、実際に歯医者さんの協力を得ることもありますが、この患者さんは形成外科だけでやりました。

 形成外科は非常に範囲が広いことをこの際ご認識していただきたいと思います。極端に言えば薬で治らない病気で何科に行けばいいのかわからない場合は、まず形成外科に来ていただければ対応できます。

 (269) 最後になりますが、形成外科はもともと交通事故や病気などで損傷した部分をもとに戻すことを専門としますが、ついでに二重に、ついでに鼻を高く等々という方も時々います。そうすると美容外科の範囲になります。形成外科は再建外科と美容外科の両方を含んだものとご理解いただきたいと思います。

 (270) この方は唇裂の患者さんですが、鼻の形がこういうふうになっているので、(271) 鼻の形も治します。(272) 下唇がちょっと少なくて、へっこんでいます。(273) 下唇を膨らませて治します。(274) ついでに二重にします。(275) これは術前、(276) 術後です。唇裂があっても全体を治すと、この人は恐らくハッピーになっていると思います。一概に美容外科に悪いということにはならないと思います。(277) この方も交通事故で、こちら側の瞼は一重ですね。(278) ついでにちょっと触らせていただきました。(279) このお婆さんはちょっとぐらいは見た目に若くなります。(280) 例えば、この人は実は30歳ぐらいの方ですが、(281) こうすると30歳ぐらいに見えます。この人は本当の年齢に戻ったことになります。(282) この方は50歳ぐらいだと思いますが、(283) こうすると4、5歳若くなります。(284) この方は80歳ぐらいですが、レーザーを使うと(285) かなりしわがなくなって若くなります。年齢が若くなるということではなくて、気持ちが若くなることが大事です。

 (286) 日本独特のきれいさには古来から変遷があって、これは代表的な日本の美人画で、浅井長政の奥さんです。これが美人の絵だとすれば、(287) 同じように鼻が長くて目が細くて口が小さい、これが日本の古来の美人です。(288) 最近の上村松篁の美人画になると、かなり現代的ですが、やはり昔の美しさの尾を引いています。(289) ところが西洋絵画では最初から人間的な美しさが絵にあります。マリア像にしてもそのように描いています。(290) この西洋絵画でもそのままのきれいさを表現しています。

 (291) 日本的な美は歴史的にかなり変わっていますので、今後、美の要素がどういうふうに変わるかわかりません。この人は素顔ですが、(292) 普段のメークから化粧の仕方ですごく変わります。(293) 同じ人でもセールスになったり銀行員になったりホステスになったりデパートの店員になったり、二重面相のようにいろいろな顔になります。形成外科が果していろいろな形に変えられるかどうかは疑問ですが、少なくともある一つの素顔から例えばデパートの店員風に変身させることは一つの使命ではないかと思います。(294) 例えばこの方はずっと(295) 眼帯をして生活をしていたのですが、(296) 形成外科をしてまだ満足ではありませんが、眼帯を取る日が来たということになります。

 どうもありがとうございました。

司 会 どうも小川先生、ありがとうございました。魔法を見るような思いをいたしました。

質問1 先ほど手首を落とした例がありました。落としたほうはビニール袋に入れて氷で冷やして持ってきますが、体のほうはどうしたらいいのですか。

小 川 体のほうは出血していると思いますので、何かタオルかハンカチでぎゅっと縛るだけで、何もしなくてもいいです。体のほうは血が循環していますので大丈夫ですが、氷冷するということは組織の代謝を抑えて冬眠状態にするためです。動物が冬眠するときに何も餌を食べなくてもいいという理屈と同じです。

質問2 5年前に開腹手術をしました。その半年後に瘢痕を気にして形成手術をしていますが、今だに瘢痕が残っています。これは体質ですか。

小 川 瘢痕は残ります。きれいな瘢痕で残るかどうかの問題です。今だに赤みがあって盛り上がって、痛みとか痒みがあるようでしたら、瘢痕がひきつれ状態といいますか、力が加わった状態になっています。そういう刺激が加わった状態ではケロイドでなくても2年も3年も続くことがあります。赤みがあって痛みがある場合には、まだ落ちついていないので、形成外科的治療をすれば改善されます。

質問3 痛みと痒みは皮膚にとっては一緒と言われていますが、どういうふうな違いがありますか。

小 川 程度の差によって痛み刺激の弱いものが痒みだという説ですが、痒みは皮膚がないと感じません。つまりやけどでも皮膚がない状態では痒いと感じません。ですから痒みは痛みの小さなものかもしれませんが、そういう意味では違います。逆に言えば、やけどがあって痒みが出てくると、皮膚が張ってきたと考えられます。

質問4 外傷とか瘢痕というのではなくて、美容外科とオーバーラッピングする場合、保険でやれるものかどうか、素人ではわかりにくいと思います。

小 川 厚生労働省のないところでお話しすることになります。大学ではできるだけ拡大解釈して保険適用にしております。具体的にこの病気はどうかと提示されないと保険の範囲かどうか申し上げにくいのですが、例えば外科の手術をした瘢痕の形成手術の場合、瘢痕縫縮という病名があります。二重の手術をする場合には眼瞼内反症という睫毛が内側に向いて眼に当たって痛いということにすることもあります。これは1例ですが。

 最初に申しましたように、皮膚に赤いアザがあったり汚れているようなアザの治療は今までの社会概念ではぜいたくだという考え方だったと思います。しかし実際、服に置き換えると、ではぜいたくだからインクの着いた着物でも着ているかというと、そういうことはないと思います。全部捨てたり病気になっているわけですから、ぜいたくでも何でもないと思います。瘢痕やアザがあってそれがその人の心の病となっていれば、それが多少でも解消されるなら私たちはできるだけ保険適用にしています。レセプトが返ってきていませんので、認められていると思います。

質問4 胸が萎んでいた人はシリコンを入れるだけで治るんですか。

小 川 あれはシリコンではありません。

司 会 漏斗胸の方ではなくて乳房再建の方です。

小 川 皮膚の下にボリュームを入れれば皮膚は延びます。例えばしわしわの風船に空気を入れると膨らんでしわがなくなりますね。それと同じことです。

質問者 その場合、保険が使えないとか美容外科に行きなさいと言わないのですか。

小 川 私どもでやっています。乳癌後の再建手術では必ずしもお腹の筋肉を使わないでシリコンバッグ−−外側がシリコンで中は生理食塩水ですが、それを使う方もいらっしゃいます。手技的には同じです。

質問者 それは実費になるんですか。

小 川 バッグ自体は自分で買っていただきます。だいたい15万円ぐらいします。そのあたり、美容外科と形成外科の難しいところですが、病気ではなくてただ少し breast を大きくしてほしいというだけでは最初から私費扱いにしています。

司 会 それではこれで小川先生のお話を終わりたいと思います。小川先生、どうもありがとうございました。これで2日目の市民講座を終わります。

この講演記録は、ボランティアの方が録音から起こした筆記録のディジタルファイルをもとに作成されたものです。
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