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関西医科大学第3回市民連続公開講座
「手術になる頭痛」
河本 圭司(関西医科大学脳神経外科学教授)
平成12年(2000年)10月21日(土)15時00分〜16時00分
関西医科大学南館臨床講堂
司会 松田教授(泌尿器科学)
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司 会(松田 公志・関西医科大学泌尿器科学教授) きょうの後半の講座に入りたいと思います。次の講師は脳神経外科学教授の河本圭司先生でございます。昭和44年に本学を卒業されておられます。タイトルは「手術になる頭痛」。私も聞きたい演題でございます。それでは河本先生よろしくお願いします。

河 本(関西医科大学脳神経外科学教授) 午前中、大学病院の脳外科に来られて、私を知っておられる方もいらっしゃるかと思います。きょうは皆さん方に少しでもお役に立てるような話ということで、私は脳外科医ですから、頭痛と、その中でも手術の対象となる頭痛について話をさせていただきます。

 皆さん方の誰もが頭痛を経験されていると思いますが、病気として病院まで来なければならないほどの頭痛はやはり少ないと思います。通常、頭が痛いというときは「借金がかさんで頭が痛い」、「嫁姑で頭が痛い」、「息子娘が思春期になって頭が痛い」と言われます。こんな方は私たちの脳外科に来られても治りようがないので、個人的に治ってもらうしかないんですが、それでもいろんな問題を持ちながら私たちの外来にやってきてもらっています。脳外科の私たちは手術ばかりしているのではなくて、外来のほとんどはむしろ頭痛の患者さんに対処していることが多い。

 皆さん方は頭痛になると「頭の中で何かが起こって危ないのではないか」と非常に不安を感じられて脳外科に来られます。はっきり言いまして、99%は手術の対象になりません。「この頭痛は何でしょうか」と私たちのところに来るわけですが、その頭痛が自分でなぜかご存じの方もいますし、全くこの頭痛が何かわからずに不安で来たという方もおられます。そういうことも含めて、頭痛には幾つかの種類がありますので、スライドを見ていただきます。

( slide No. 1 )   きょうは皆さん方には頭痛の他に脳について、また新しい治療法、大学としての使命についてもいろいろな話をさせていただきます。皆さんも見たことのないような医学生用のスライドも何枚か使いますので、見て心臓麻痺を起こさないようにお願いいたします。

( slide No. 2 )
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  頭痛の種類                (1967喜多村)
   血管性頭痛
   筋収縮性頭痛(筋緊張性頭痛)
  牽引性頭痛
  炎症性・神経痛性頭痛
  眼・耳・鼻・歯疾患性頭痛
  精神病学的原因による頭痛(心因性頭痛)
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 頭痛はこのように分類されています。血管性頭痛には片頭痛型と非片頭痛型がありますが、ずきずきする頭痛です。筋収縮性頭痛はじーっとかがーっとするような持続する頭痛です。筋緊張性頭痛とも言います。これが最も多い。牽引性頭痛は何か引っ張られているようなずっと同じような痛みが続きます。

 炎症性頭痛は髄膜炎とか脳炎という炎症による頭痛で、非常に激しく、吐き気があってたまらない痛みです。眼・耳・鼻・歯疾患性頭痛は眼が痛いために、副鼻腔炎ために、歯が痛いために頭が痛みます。それから精神病学的原因による頭痛は心因性頭痛ともいいますが、いろんな悩みの中で頭が痛くなる。先ほどの家庭のごたごたもこれに含まれます。

( slide No. 3 )  頭痛を絵に描きますとこのようになります。血管性は血管が拡張するために頭がずきずきする。片頭痛がこれに該当します。牽引性は脳腫瘍がほとんど原因している頭痛のタイプです。筋収縮性は非常に激しい運動のために筋肉痛があるという頭痛ですが、きのう一生懸命走りすぎて、泳ぎすぎて全身が痛くて頭も痛いという人はわざわざ大学へ来ません。特に針仕事、編み物などをする人に多く、ずっと長期間続く頭痛で、最も多いタイプです。炎症性は髄膜炎とか脳炎などの炎症による頭痛です。

( slide No. 4 )
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  急 性:クモ膜下出血、髄膜炎、脳出血
  亜急性(数時間〜数日):外傷、脳腫瘍
 慢 性(数日〜数カ月):筋収縮性頭痛、
             心因性頭痛、片頭痛
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  頭痛でも別の見方をすれば、突然くる頭痛があります。急性にくる頭痛の中でクモ膜下出血は今回、後でお見せしますが、突然くる頭痛の一つです。その他に髄膜炎、脳出血があります。数時間から数日してくる亜急性の頭痛には外傷あるいは脳腫瘍。脳腫瘍の頭痛は治療しなければ階段状にどんどん悪くなってくるのが特徴です。

  何日も何カ月も痛いというのが筋収縮性あるいは心因性、あるいは時期的な問題がなければ片頭痛があります。

( slide No. 5 )  病院に来られる頭痛の中で筋緊張性頭痛が半分くらいで一番多く、片頭痛が14.3%、全身性疾患に伴う頭痛が19.7%。結局、外科的疾患になるのは2%ぐらいで、頭痛の中では大した数ではない。脳外科の外来に来られる方は紹介されてくる患者さんが多いので、たいていは単なる頭痛だけで、入院して手術をしなければならないという方はあまりいません。

( slide No. 6 )
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  片頭痛の3タイプ
  1.典型的片頭痛
  2.普通型片頭痛
  3.群発(性)頭痛
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 片頭痛と言われる頭痛について考えてみます。皆さん方は「片頭痛」という言葉をご存じですね。右の頭が痛ければ片頭痛と思われていますし、開業医の先生も右の頭が痛いと、「これは片頭痛ですね」と言われます。片方(一側)だけの頭痛は片頭痛に限りません。片頭痛は確かに片方だけですが、筋緊張性頭痛でも十分出てきます。

 片頭痛には典型的片頭痛、普通型片頭痛、群発頭痛という凄い頭痛もあります。典型的片頭痛は右なら右に必ず出てくる片頭痛です。右が痛いから片頭痛であるとは必ずしも言えない。右側が痛くてさらに左側も痛くなったときには、これは片頭痛ではない。その点は簡単に片頭痛だと言わないようにしていただきたいと思います。

( slide No. 7 ) 通常片頭痛と言われているものは皆さん方が思われているのと違って、すごく痛い、とてつもなく痛い。この頭痛が始まる前に、目の前がぱーっと明るくなってその真ん中にぽっと暗い点が出てきます。これを閃輝(性)暗点と言いますが、その後、頭痛のために汗をたらたら流して考えることも食べることもできない。その頭痛が数時間ぐらい続くと、今何があったのかと思わせるほどふっとなくなります。こういうのが片頭痛です。朝からじわじわ頭が痛くなってきたというのは片頭痛ではないんです。これは筋緊張性頭痛で、どんどん悪くなってくる型です。片頭痛は突然にきて、頭が割れそうだ、耐えがたい、何とかしてくれと言っている割には、しばらくするとすっと鎮まる。嘘でも言っているのではないとか思われます。これを持っている方は気の毒ですが、口外できないほどの辛さを経験されています。

 これは血管が拡張するからだとわかっていますから、血管を収縮する薬を飲めば必ず治ります。こういう患者さんには「この頭痛は治らないけれども、薬と仲良くしてください」と申し上げています。そうすると安心して、頭痛の前兆がくると薬を飲みます。この薬ではもう一つだというときには片頭痛用の薬がありますので、これを飲むとぴたっと治る。これで安心しておられます。この薬を持たないで診断がつかないと不安で仕方がない。前兆がきても治りようがないので、のたうち回るわけですね。死にそうになるのですが、痛い割には決して死ぬことはないです。

( slide No. 8 )
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  片頭痛の特徴                  
  1.女性に多い.  2.10歳から20歳代に発症.
  3.家族性がある. 4.発生頻度は数回/月. 
  5.持続は数時間. 6.一側の前側頭部.   
  7.拍動性頭痛.  8.自律神経症状を伴う. 
  9.羞明、音声過敏を伴う.          
  10.睡眠をとると頭痛は軽快・消失する.    
  11.誘因:ストレス、疲労、飲酒.       
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 片頭痛は10〜20歳ぐらいの女性に多い。家族性で数時間、一側性、拍動性、これが片頭痛の特徴です。ですから、片頭痛と思っている方がこの会場におられるかもわかりませんが、このような典型的な片頭痛ではないと思います。

( slide No. 9 )   群発性頭痛は片頭痛の一つと言われています。これは眼の奥を突き刺されたような激痛で、男性に多く、夜発症することが多い。ご本人が症状を説明されると、群発性頭痛とすぐに診断できます。これも薬と仲良くすれば共存できる大丈夫な頭痛です。

( slide No. 10 ) そうしますと、頭が痛いというときに片頭痛に該当する方はそうたくさんいません。通常皆さん方の「頭が痛い」というのは筋緊張性頭痛です。この絵でも販売量が減って頭が痛い、借金も多少関係しているでしょう。自分の娘息子の進学の問題などがあります。

 私は長年、頭痛の患者さんをたくさん診ていますが、この頭痛の方は基本的には性格的に細かい人が多いですね。これをしておかないかと他人から後ろ指を指される。明治時代の人はおられないと思いますが、昭和初期に非常に几帳面な生活をされ教育を受けた方は本当に手を抜くことがない。一生懸命やっているうちにどっちつかずになって、町内ではあれもこれも……と頭がかっとなって、まず寝られない。

 まず大きな原因が睡眠不足です。この会場には多少年齢の高い方がおられますが、朝早く、4、5時頃起きて仕事をするのが美徳のように思われています。しかしこれは決して美徳ではありません。しっかり寝ていただかないといけない。普通の成人は平均7時間ぐらいの睡眠で十分だと思いますが、お年寄りになると8〜9時間は寝てもらわないといけない。大体11時頃から寝て、歳をとってくるとトイレも近くて、朝の4、5時に目が覚めてそのままずっと起きている。これをずっと続けていると、最近頭が痛くてフラフラする。これはまず睡眠障害です。睡眠障害に性格が非常に几帳面な人、これが筋緊張性頭痛を起こしやすいタイプです。

 そのために私どもの治療はまず肩の凝りを治します。よく眠るために睡眠導入剤という非常に軽い薬を出して、少なくとも6時間上は寝てもらわないといけない。睡眠剤ではグーグー寝てしまって起こしても起きてこない、起きてもふらふらするというので、睡眠剤は出さないようにしています。6時間以上寝ていない人は睡眠障害と思ってください。そのために肩凝りがきます。そして何となく体が重い。

( slide No. 11 )
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  筋収縮性頭痛の特徴                         
  1.男女差はあまりない. 2.後頭部から項部を中心とする.    
  3.両側性のことが多い. 4.頭痛の性質:圧迫感、緊迫感、頭重感.
  5.徐々に始まる.    6.軽快因子:入浴、飲酒        
  7.増悪因子:ストレス、眼球屈折異常               
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 男女差はありません。特に頭の後ろが痛い、つまり肩が凝ってくるわけですね。両側性のことが多い。圧迫感がずっと続くことが多い。頭が重い。これが筋緊張性頭痛の特徴です。これにプラスαで、いろいろなストレスがたまってきて増強することがあります。

 これが頭痛の中で一番多いのですが、私もこないだ人にだまされました。1年間、ずっと筋緊張性頭痛と診断していたのですが、突然、
「先生、すっかり治りました」
「元気がいいですね。いつも顔が暗いのにきょうは何かいいことがあったのですか」
「実は愛人とやっと別れることができました」。私はびっくりしました。

 大学病院では後ろに学生が3、4人いるわけですね。心療内科は外しているかもしれませんが。身辺のいろいろなややこしい事情を、私と患者さん同士ではいいのですか、若い看護婦さんがいると照れくさくて話せない。愛人問題の手切れ金云々で1年間もめていたことからやっと離れて、頭痛の薬がいらなくなった。そういう頭痛もあり、私たちも診断するのに苦労します。はっきり言ってもらうといいのですが、患者さんも周りに人がいるので言いにくい。私たちも反省しているのですが、そういう方がおられました。

( slide No. 12 ) ここからは、私たちの手術にかかってくる頭痛にどんなものがあるかお話ししますが、その前に脳について、見たことのない写真を見てもらって、どういったことから病気がくるかということを理解していただきます。

 脳を横から見ると、大脳には皺がいっぱいあって、小脳、脳幹部。これが成人の正常な脳です。歳をとってくると、この皺がだんだんふえて、また萎縮してぼけがくることもあります。60〜70歳になると、物忘れが多くてぼけてくるのではないかというので来院して頭の写真を撮りますと、そんな人ほど何もない。黙っている人のほうが実は怖いですね。

( slide No. 13 ) これが正中で割った割面の写真です。これは小脳。呼吸、意識を司る中枢のある脳幹部ですね。

( slide No. 14 ) 脳には、前頭葉、側頭葉、後頭葉、小脳などがあります。前頭葉は判断ですね。頭頂葉は手足を動かす運動あるいは知覚を司るところ、側頭葉は記憶、小脳は運動の調節するところでバランスがとれるようにします。脳幹部は呼吸とか意識の中枢です。

 そうすると頭痛はどこでわかるのか。皮膚には知覚神経がありますから、皮膚を押さえたり切れば痛いですね。頭の骨を外から叩かれると痛いのですが、軽くコンコンとやってもそんなに痛いものでもない。脳をブスッやると痛いかというと、不思議と何もないんですね。知覚野を通らない限りは痛くないんです。ではどこが頭痛の原因かというと、脳を包んでいる髄膜に知覚の受容体があります。

( slide No. 15 ) 顔、口、手足などを動かすように指示する場所が決まっています。これを「体性機能の局在」と言います(Penfield)。この位置を決めるのに 100年近くかかっています。そうすると、脳はここまでわかってきたかというと、そうでもない。大きなことがわかって一見わかったように思われますが、まだまだわからないことだらけです。だから21世紀は「脳の時代」だと言われています。

 例えば性格ですね。あの人は性格が悪い、嘘をついているのではないか、分裂病ではないか。誰が診断していいのか、客観的にはわかりませんね。21世紀には、こういうのがどうなっているか、因果関係が恐らくわかってくると思います。

 皆さん方はこちらから見るとしっかり勉強されていますが、中には目をつぶって寝ているのか考えているのかわからない人もいますね。それが今はPETという機械で、例えば右の手を動かすと左脳が動いているのが画像化されてわかります。

 この会場に左利きの人はいますか。…字はどちらで書きますか。…右手ですね。この人は人生を得しています。といいますのは、脳は左半球のほうが大事なんです。右手の人は左脳なんです。左利きの人は右脳でも 100%右ではありません。この方は右手で書かれるので、左にも優位半球があり、右にも優位半球があって、2つ分の脳を持っています。

 左脳の側頭葉に言語野がありますから、右利きの人は脳の左側がやられると、「名前は何ですか」「…………」と、わかっているけれどもしゃべれない。左脳がやられて手足が動かなくなってしゃべれなくなると、二重苦で生きている価値がないように感じます。ところが左利きの人は左側の脳は動かなくても、ちゃんとしゃべれます。言語野がやられるかやられないか、コミュニケーションがあるかないかで、人間の生き方も全然違います。だから左利きの人は得なんです。

( slide No. 16 ) 100年前にレントゲン (W.C.Roentogen, 1845-1923) がX線を発見し、これが脳の診断に使われるようになってきました。

( slide No. 17 ) ハンスフィールド(G.N.Hounsfield, 1919-) が脳にたくさんのX線ビームを当てて、それをコンピューターに取り込んで脳を立体的に見ようというX線断層撮影像装置を作りました。その功績でこの方は1979年にノーベル賞をもらいました。医学の世界でレントゲンがX線を発見したのと同様に、ハンスフィールドが科学文明の最たるコンピューターを医学の世界に導入して作り出した医学の革新的な機械ですね。

( slide No. 18 ) ところが、写し方が悪いのかわかりませんが、もともとの写真はぼけていて、脳の中はあまり大して見えない。でも脳の中が見えるということは私たち脳外科医にとっては驚異的なことでした。私が脳外科医になったときはこういう機械がありませんから、血管撮影をして脳の診断をしていました。大学の一番の精密検査といえば脳波をとららえることでしたが、脳波計は今では化石みたいなものです。てんかんを除いて診断できるはずがないんです。

( slide No. 19 ) これは私が1976年にニューヨークに行ったときに初めて撮った脳の水平断の写真です。肉眼的な脳と写真で見た脳とでは雲泥の差ですね。ところが時代はどんどん進歩して、脳の細かいところまで外から見られるようになりました。

( slide No. 20 ) そのとき私は脳の水平断の写真を集めてアトラスを出しました『 An Atlas of the Human Brain for Computerized Tomography』。現在、海外出版書は持っていませんが。

( slide No. 21 ) これはまだ新しい像ですが、先ほど見たよりは実物の脳にまあまあ近づいていますね。

( slide No. 22 ) 皆さんご存じのMRI(核磁気共鳴画像)は磁力を使っていますが、さらに驚くべきことに脳の矢状断(縦切り)の画像が可能になり、さらに繊細なところまでわかる時代がきました。

( slide No. 23 ) これは1500年頃のミケランジェロの「天地創造」で親子で、息子に手を差し延べている絵ですが、この絵こそMRIで見た縦断面の写真と全く一緒なんですね。最初はわからなかったのですが、つい最近、指さしている神が脳の縦断面だということがわかりました。解剖の写生そのものが絵画の始まりだと言っていいほど大事なことだったのか。ミケランジェロは恐らく脳を縦切りにしてスケッチをしていたのではないかと考えられます。

( slide No. 24 ) 私たちで大事な頭痛を紹介します。皆さん方が脳外科に来られるのはたいていは筋収縮性頭痛なのですが、脳外科に来るとすぐに手術になる頭痛があります。それはクモ膜下出血で、この言葉をご存じだと思います。脳は水に浮いたような状態で存在していて、その水浸しになっている状態の脳底部に太い動脈があります。この血管が破れて脳を包んでいるクモ膜の下に出血することから、クモ膜下出血と言われています。

 これは大きな怖い病気で、突然、頭を殴られたようなとてつもない頭痛がします。この頭痛は本人しかわからないのですが、これだけは嘘で来る人はまずいません。

( slide No. 25 )
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  クモ膜下出血による頭痛の特徴
  1.突然.
  2.激烈.
  3.後頭部〜項部の頭痛
  4.項部硬直あり
  5.ケルニッヒ徴候あり
  6.髄液が血性
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 これは突然で激烈です。「昨日の晩から頭が痛くて、眠れなかった。きょうの朝から突然ものすごく痛くなって、吐きそうになった」というのも突然で激烈ですが、私たちはこれを聞いただけでクモ膜下出血ではないということがわかります。漢字で書けば「突然」「激烈」ですが、この「突然」というのは○月○日○時○分○秒の単位で覚えているものなのです。「ちょっと前に頭が痛くなって、どんどん痛くなって、きょうの朝は頭が痛くて吐いた」というのは筋緊張性頭痛の強くなった場合あるいは片頭痛が突然来た場合で、突然の意味が全然違います。

( slide No. 26 ) クモ膜下でなぜ出血するかというと、脳の動脈に瘤のようにふくらんだところ(脳動脈瘤)があって、これが破れると出血を起こします。

 これは脳底部にあるんですね。ウィリス動脈輪という環状線みたいなもので、空港からきて環状線があってクルクルと回ってこちらは神戸線か松原線か、天王寺もありますね。こういった環状線のところから多くの動脈が出ていますが、前交通動脈、内頸動脈と中大脳動脈にできる動脈瘤を特に3大脳動脈瘤と呼んでいます。もちろんいろいろな細かい分類はありますが、プクッと膨らんだ血管が破れるためにクモ膜下出血を起こします。

( slide No. 27 ) これを見て気絶しないようにしてください。これはクモ膜下出血で亡くなられた方の脳です。程度の軽いものから即死に近い人までいますが、これほど激烈になってしまいますと……。クモ膜は脳の外側にある薄い膜で、そこに血が散らばっています。

( slide No. 28 ) これが脳底部で、前頭葉、側頭葉、小脳です。先ほどの環状線(ウィリス動脈輪)がこのへんにありますが、出血が多くて手術にもならない人でした。お気の毒ですが、病理解剖になりました。患者さんの半分くらいは初めは血管が縮んでちょっと出血するだけですが、このようにドスンといってしまう人もいます。ちょこっと出血しただけでも激烈な頭痛があります。

( slide No. 29 ) これがクモ膜下出血のCTです。外周は頭の骨ですね。脳底部がここにあります。この白いのが出血部位で、これを見てクモ膜下出血と診断して、脳の血管撮影をします。これを見落とすと私どもはプロとしての地位を剥奪されるぐらい大変なことになります。

 「突然、頭痛が来た」と外来に来られると一瞬緊張します。「いつからですか」、「きのうの晩からです」と言われると、それでほっとします。ともかく学生さんが患者さんから「突然の頭痛で来ました」と聞いて問診票に書いてあるんですね。これを見落としたら大変なことになるので緊張します。

( slide No. 30 ) 血管撮影をすると、皆さんは見慣れていないのでわかりにくいと思いますが、前と横に頸動脈が走っていて、前交通動脈に動脈瘤があってプクッと膨れています。開頭してここにクリップをかけます。

( slide No. 31 ) 血管撮影でもここの前交通動脈瘤を発見できますが、最近はMRIが使えるようになって、脳の血管撮影をせずに脳の動脈を写すことができるようになってきました。

 皆さんはご存じかと思いますが、「脳ドック」がございます。脳ドックに行きますと、MRIで頭の中を見ると同時に脳の血管も調べます。そのときに脳の動脈瘤を血管撮影せずに発見できます。つまり未破裂脳動脈瘤(破裂をしていない、クモ膜下出血を起こしていない動脈瘤)が発見できるようになりました。

 これが見つかると、患者さんにすれば大変なことですね。何の頭痛もないのに突然、「動脈瘤が見つかりました」。手術をしたほがいいのかどうか。私にすれば「病院のためにちょっと稼がないといかん」というのが心の底にありますが、破れていない人に手術をして失敗したら、最近は訴えられますから怖いですね。ジレンマに陥るわけです。果して脳ドックに行くのがいいのかどうか。私自身は脳ドックに行ったことがありませんから、もし行って動脈瘤が見つかったらショックですね。

 それぐらいに医療機器が発達して、病気も発症する前に発見できます。このまま放置していても破裂しない動脈瘤かどうかというのが、統計的に出てきましたから、患者さんに「これは手術をしたほうがいいですよ」と言うことはできます。80歳の方では、開頭して失敗したらそれこそご本人もお気の毒ですし、私たちも訴えられますし、やめときましょうかというぐらいです。若い人では、今にも破れそうな動脈瘤なら、せっかく見つけたのにみすみす放ったらかすわけにはいかない。そのために命を落としてしまうかもしれない。

 医学そのものは本来ならば治療よりも予防医学ですから、病気になる前に治療することが一番理想的です。それでも大変な問題が実際、私たちの医療現場にもございます。

( slide No. 32 ) この人の動脈瘤は破裂していませんが、脳底動脈の最も手術の難しいところにあって、これを手術することは大変に困難です。今ではこのようなケースには開頭手術をせずに、大腿部の動脈からカテーテルを入れて心臓を通って脳の中に入っていって、ここまで到達します。そしてここにコイルを入れてしまいます。手品師みたいなものです。

 この方法は14、15年前にロシア人によって提唱され、私はロシアみたいな医学の発達していないところで、そんな方法は血管を突き破って死んでしまうと思っていたのですが、何と今は動脈瘤の半分以上はこの方法で、コイルを留置したり塞栓物を入れたりします。手術をするにも大腿部に5mmぐらいの傷を入れるだけで、外観上手術らしい手術でもないのですが、このような血管内手術が大はやりです。私はしていませんが、本大学病院には専門家が2人います。脳動脈瘤になられても頭を開いて血だらけになって包帯を巻いて帰ることもなくなりました。手術をしたのかどうかとお思いになる方も多いのですが、コイルを詰めてケロッとして帰られます。嘘みたいで手品師みたいなものですが、これは今の脳外科の最も進歩した方法です。

( slide No. 33 ) 通常の血管系は動脈から毛細血管を経て静脈になるのですが、脳動静脈奇形は毛細血管がなくなって動脈と静脈がごちゃまぜになってしまった状態を呈します。これはわけのわからない血管の瘤みたいなもので、これを手術するときは開頭した途端、目の前に血管の塊があるわけですね。血管を切りますと血がブワーと出て足が震えてしまいます。昔はクリップをかけまくって、そこらの血管をクリップだらけにしてやっと止めた、ほっとしてやっと終わったというぐらいの嫌な手術でした。

( slide No. 34 ) ところが最近の血管内手術によりカテーテルを通して、ここに塞栓物を入れると、すかっとなくなってしまいます。本当に嘘のような本当の話です。皆さん方は多分をこれを見られることはまずないと思いますが、これは本当に医学の進歩したところだと思います。これもクモ膜下出血を起こします。

( slide No. 35 ) もう一つ、皆さんご存じの脳出血がございます。このように脳の外側に出血する場合と内側に出血する場合があります。脳の外側で出血すると、運動神経が集まっていますから、血液を除けば手足の麻痺が治ってきます。

( slide No. 36 ) ところが脳の深部、例えば視床で出血すると、運動神経が集まっている外側の大脳を突き抜けないといけない。麻痺があまりないのに全く動かなくなったら患者さんから訴えられます。最近はなるべく手術前より悪くしたらいけないということになっていますから。このようなケースではほとんど手術することはありません。

 脳出血もそうですが、頭を打ったから脳外科に来て手術をしたら皆よくなると思われると困るんですね。よくなる人もいますし、運悪く境界線を境にして内側で出血すると、お気の毒ですが手足が動かないまま亡くなってしまうこともあります。

 例えば頭部外傷でも、頭の骨がぼこっとへっこんで骨の下に血が溜まっている。家族の方も「暴走族の息子ですけども、何とか助けてください」と。写真を見て、その血が脳の硬膜の外側に溜まっていれば、私たちも「これはよかったなあ」、助けることができます。血液を除けば一挙に治ります。数日すれば機能が戻ってきます。

 そうは言っても、脳外科に行って手術をすれば何でも助かるものではないんですね。特に脳挫傷といって、出血がなくても脳がぐしゃぐしゃになっていれば手術のしようがない。だからそれときは「お気の毒ですが、助かりません」というしかないですね。

( slide No. 37 ) これは頭頂部にできた腫瘍ですね。

( sliが飛んで余計に悪くなることは数%あります。その点については検査前にお話しします。動脈硬化は若い人では 100%ないのですが、やはり60歳、70歳になると血管そのものに元々ありますので、カテーテルを入れることによって血管壁を傷つけたりあるいは動脈そのものが破れることもあります。

司 会 河本先生、どうもありがとうございました。お二人の講師のご講演できょうの講座を終わりたいと思います。

この講演記録は、ボランティアの方が録音から起こした筆記録のディジタルファイルをもとに作成されたものです。
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