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関西医科大学第3回市民連続公開講座
「患者にやさしい手術と検査」
權 雅憲(関西医科大学外科学第一・助教授)
平成12年(2000年)12月2日(土)15時00分〜16時00分
関西医科大学南館臨床講堂
司会 松原助教授(内科学第二)
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司 会(松原弘明・関西医科大学内科学第二・助教授) それでは今回の最後の講師の先生をご紹介させていただきます。関西医大第一外科助教授の權雅憲先生は関西医大を昭和56年に卒業され、専門分野は消化器外科、内視鏡外科、特にお腹を切らないで手術する腹腔鏡下手術の本学の第一人者です。そのへんのことを中心にしてきょうはお話ししていただけると思います。それではよろしくお願いします。

權(関西医科大学外科学第一・助教授) 

( slide No. 1 ) 手術を受けられた方はいらっしゃいますか。僕は手術を受けたことはありませんが、先日オデキを切ってもらって痛かった経験があります。お腹を切られる人はどんな目をしておられるのか。人の痛みはその人にしかわかりません。いくら診ていても、痛みを自分の身となって考えることは難しく、家族の方でもわからないと思います。人の体を切る手術が許されるのには、そのことにメリットがあるということが大前提になります。昔はお腹を切るしかなかった。もちろんお腹を切らずに手術をする心霊術ではないのですが。

 きょうお話ししたいのは、松原先生からお話がありましたように、切るにもなるべく小さく切ろう、なるべく患者さんの負担を減らそう、そういう手術が最近できるようになってきました。

( slide No. 2 )  まず簡単に外科の歴史から。

 1537年に Pare が理髪師から外科医に転身します。昔は散髪屋さんが外科をやっていました。その名残として床屋さんの前で赤青白の帯がクルクル回っているのがありますね。赤が動脈、青が静脈、白が包帯だろうと言われています。いずれにしても、内科の先生が本当の医者で、外科医は本当の医者ではなかったことから、「床屋外科」「床屋医者」という半分蔑んだような言い方がありました。ところが、この人の腕が非常によかった。

 昔、戦争でけがをすると、傷口から毒が入るので、傷口に焼きごてを当てたり熱した油を使うのが消毒だと考えられていました。そういうものでやっつけて、膿と一緒に毒を出してしまう。今の考えとちょっと近いところがありますが、結局そうすることによってかえって傷がひどくなる。

 この Pare は本に、そんなことをするよりもそこの血を止めてきれいにして包帯を当てたほうが早く治ると書いています。「われは包帯するのみ。神が癒したもう」は非常に有名な言葉です。

 1543年、Vesaliusが人体解剖学を確立し、

 1774年、日本では皆さんよくご存じの杉田玄白が『解体新書』をオランダ語から訳して、ようやく日本にも西洋的な医学が入ってきます。

 1805年、華岡青洲が曼陀羅華(チョウセンアサガオ)から抽出したもので麻酔をして乳癌の手術をした。これが世界でまず最初だと思いますが、西暦 200年ぐらいに中国の華佗(華陀)という医者が、麻沸散という麻酔薬を作って手術をしたという報告があります。しかし、残念ながら本にして残していない。ちゃんとした報告書として残っているは華岡青洲ですね。有吉佐和子が『華岡青洲の妻』に華岡青洲に関して嫁と姑の確執と医学のことを絡めて非常におもしろく書いています。

 その後、1842年に Morton が世界で初めてエーテル麻酔下で手術をしています。解剖学が確立されても、痛みを和らげる手段が何もなかったわけですが、ここで初めて麻酔が登場してきました。

 1847年に Semmelweissが産褥熱は医者が汚い手で扱うことが原因であることを発見します。その当時、出産時に感染が起こっても仕方ないことだと思われていたのですが、病院中で産褥熱がはやるのは医者が悪いからだと言ったら、医者から大反対を食らって、結局非常に不幸な死に方をします。

 この人の死後、1867年に Lister が石炭酸を使った消毒法を初めて見出します。きれいにすることによって感染症が防げる。先ほどの麻酔法と消毒法が出てきて、解剖学も整ったことから、ここから近代の外科手術が始まります。

 1881年に非常に有名な Billroth が胃癌を切除しました。今では当たり前ですが、 120年前の Billroth が考えた Billroth I 法、II法という胃の手術法は今日まで行われています。きょう、ビデオでお見せするのは主に胆嚢の手術ですが、これに関しても 120年前に Langenbeck が考えた手技がそのまま受け継がれています。外科手術の術式はそんなに変わりません。

 1891年に Halstedが初めてゴムの手袋を使うこと提唱し、1895年に Roentgen がエックス線を発見したのは一番よくご存じだと思います。奥さんの指輪をした手を撮ったX線写真が初めての映像になります。

 その後、1901年に血液型が発見され、最後に1928年に Flemingがペニシリンを発見しました。ということで外科における消毒、麻酔、感染症に対する抗生物質という役者が全部そろいました。これが土台になります。

( slide No. 3 ) 昔の足を切断するときの絵ですが、みんなで押さえてのこぎりで切ります。もちろん麻酔もありませんし、横にある焼きごてで切った面を焼くわけですね。この人は神様にお祈りしています。想像するだけで悲惨な手術です。これを主にやっていたのが「床屋外科」です。

( slide No. 4 ) 解剖学の祖、Andreas Vesalius(1514-64) が著した本の表紙ですが、16世紀には人体の骨格がきれいに解明されています。骸骨が骸骨を見て考えているのがおもしろいですね。

( slide No. 5 ) 17世紀の絵 (1632年) では、先生が学校で人を解剖しながら講義をしています。これは光と影の画家レンブラントによる非常に有名な絵で、西欧では17世紀には大学で解剖学を教えています。

( slide No. 6 ) Morton(1819-68) が発明したエーテル麻酔吸入器です。ここからエーテルを入れて、ここから患者さんにかがせて麻酔をする。麻酔の発見に関して、もう一つ笑気というガス麻酔がありますが、3人の研究者が絡んで「自分が先に発明した」と結局訴訟合戦をして、3人ともが精神的な異常を来して非常に不幸な死を遂げています。医学もきれいごとばかりではない。名誉は誰のものかということが非常に問題になりますが、そんな歴史もあります。

( slide No. 7 ) 1846年10月16日、マサチューセッツ総合病院で世界で初めてエーテル麻酔をかけながら首の手術が行われました。そのときの写真です。

( slide No. 8 ) 華岡青洲(1760-1835) はこんな顔をしています。チョウセンアサガオ(曼陀羅華)を煎じた通仙散を使って乳癌の手術をしています。1804年ですから、先ほどのエーテル麻酔よりも40年も早い。

( slide No. 9 ) Lister (1827-1912) の考えた消毒法は、石炭酸を噴霧器で部屋中に霧のようにして満たして、そこで手術をしたということです。もちろん手も石炭酸で洗いますが、石炭酸は肌を非常に荒らして、外科医の手はぼろぼろになっていました。今は使っていません。

( slide No. 10 )  「Know everything but do nothing. Know nothing but do everything」。前段は外科医が内科医に言う言葉で、「何でも知っているけれども何もできない」。後段の「何も知らないけれども何でもできる」のは外科医です。真実かどうか知りませんが、今はもちろん両方とも知らないとできません。昔からお互いにこんなことを言い合っている節があります。

 先ほどの華岡青洲が残した言葉に「内外合一」。内科と外科という意味もありますが、体内にある精神的なものと外に現れるものが一致したときに初めて健康が得られるという意味です。もう一つは「活物究理」。物事の動きを見極めて真理を悟っていかなければならないという非常にいい言葉で、医者に限らず誰にも当てはまる言葉だと思います。

( slide No. 11 )  腹腔鏡下手術はなぜ登場してきたか。

 従来、外科においては患部を取り除くためには術野を大きく開けることが必要だとされ、それに伴う患者の創傷(苦痛)は仕方がないだろうと言われてきました。しかしこれからは高齢化社会が進んできて、患者さんをなるべく傷つけない、侵襲を少なくする、痛みを少なくすることが要求されてきています。だから昔やっていた胃の開腹手術も、最近では胃の小さい手術ならば内視鏡で治療ができます。昔ならできなかったことも、いろいろな器械や医学の進歩でできるようになってきました。

 腹腔鏡下手術はいくら傷口が小さくて済むとはいえ、切らないと腹腔内が見えない。小さい孔を開けて、炭酸ガスを入れて膨らませます。そこにカメラを挿入して、医者は腹腔内の操作をテレビを見ながらやります。

 それは患者さんにはやさしい手術になりますが、医者にとっては結構面倒です。いろいろな器械が出ても、人間の手に勝る器械はありません。感触もわかるし、どけたり摘んだり、こんないい道具を器械に置き換えることは 100年経ってもできるかどうか。そういう手が使えないので外科医にはかえって難しくなります。

( slide No. 12 ) 小さく切る腹腔鏡下手術にも長所と短所があります。長所として、まず(1) 開腹手術と同じように手術ができます。小さな孔を開けるから省略できるとか小さなことしかできないということではない。同じことができます。

 もう一つは(2) 入院期間が短くなり、早く社会復帰ができます。(3) 傷が小さいので術後の痛みや不快感が少なく、早く治ります。若い人にとってはやはり(4) 美容的な効果があると思います。お腹を大きく切るよりも、できる限り小さく目立たない傷にすると、やはりいいことがあるのではないか。特に僕らも未婚の方が来られると非常に気を使います。別に結婚されている方はどうでもいいかというとそうではありませんが。そして(5) 医療費の軽減。

 短所ももちろんあります。やはり(a) 技術的な熟練を要し、器械を使うことに慣れなければならない。それから(b) 特別のいろいろなカメラや道具が必要になります。

( slide No. 13 ) 創部を大きさを比較してみます。ちょっと体格のいい女性ですが、左側の今までの術式では鳩尾から臍までずっと切ります。右の腹腔鏡下手術では、ここが1cm、臍の縁はほとんど見えないですね。5mmと5mm。これぐらいで終わります。同じ手術でもこれぐらいの差が出てきます。 ( slide No. 14 )  手順にもいろいろな方法があります。初めに膨らませないといけないのですが、まず穿刺法(Versess針) による気腹方法では、針を刺して二酸化炭素を送ってお腹を膨らませます。これは径が1cmの中が筒のようになっている套管針で、その筒を通して器械を入れたり出したりします。ここに弁がついていて、中の二酸化炭素が漏れないようになっています。こういう道具が要ります。

( slide No. 15 )  もう一つは小切開法といって、臍のところを1cmぐらい切ります。そこに同じように套管針を入れます。穿刺法ではお腹の中が見えないので、針を刺すにも blindで万が一他のところを刺しても困るのですが、小切開法ではお腹を開けるので目で追えます。こういう方法が安全であろうと思います。ここに1本目、2本目、3本目、……ここからカメラが入ります。1cm、1cm、5mm、5mm、こういう傷だけが残ります。

( slide No. 16 )  その他に腹壁吊り上げ方法があります。お腹の中に二酸化炭素を入れると心臓に負担がかかることがたまにありますので、そういう方には、見ると痛々しいのですが、お腹の皮膚の下にワイヤーを入れて腹壁を持ち上げて、手術をします。

( slide No. 17 )  カメラ、チューブ等いろいろな道具があり、長いものでは40cmぐらいのものがあります。これらを全部使うわけではありませんが、こういう道具はどうしても必要です。今までの道具は使えません。

( slide No. 18 )  どんな手術でも合併症はあり、腹腔鏡下手術にも気腹操作に伴う合併症があります。針で血管を刺してしまうとか、腹壁の下に空気がたまることもあります。炭酸ガスが血管に入ってしまうと、高炭酸ガス血症やガス塞栓。不整脈。横隔膜が押されるので、術後に肩が痛いという方も20〜30%おられます。いずれにしても、合併症は頻繁に起こるものではなく、本学では1例もありませんが、報告としてはあります。

( slide No. 19 )  きょうはビデオで主に胆嚢結石の手術を見ていただきますが、その前に結石に関して理解しやすいために、解剖学的にどういうふうになっているかを説明します。

 肝臓があって、ここに胆管があります。この胆管には肝臓で作られた胆汁という消化液が、この下にある膵臓から膵液という消化液が膵管を通して流れてきて、十二指腸の手前で胆汁と一緒になり、消化管に入ります。胆汁は油っけのものの消化に役に立つので、胆石ができると、油っこいものを食べたときにむかついたり下痢をしたりします。

 肝臓にある胆管には肝内胆管という名前があります。ここにあるなすび型の袋が胆嚢。肝臓でできた胆汁は肝臓→総肝管→胆嚢管→胆嚢の経路で、胆嚢でいったん溜めて濃縮し、食べ物が入ってくると、胆嚢がしぼんでこの中にあった濃縮された胆汁は胆嚢→胆嚢管→総胆管→十二指腸の経路で出てきて、消化の効率をよくします。胆嚢は肝臓の横についていて、生命を維持するには必ずしも必要な臓器ではなく、なくなったとしても胆汁の流れる道は確保されています。そういう意味で胆嚢を摘出することが可能になります。

( slide No. 20 )  胆石症のうち、肝内胆管にできる結石を「肝内結石」、全体の3〜5%あります。総肝管や総胆管には大体15〜20%ぐらいできます。一番多いのは「胆嚢内結石」で、70〜80%。胆石症はこの胆汁が流れる道筋のどこかに結石があることをいいますが、結石のある場所によってそれぞれ名前が違います。一般に皆さんが胆石と理解されているのは胆嚢にある結石です。

( slide No. 21 )  胆石にもいろいろな種類があり、左の白いのはコレステロール胆石です。非常にきれいですが、こんなんができるのは奇妙ですね。右側は色素胆石で、ビリルビン結石という名前が付いています。左はコレステロール、右はビリルビンが主成分です。下は黒色石です。いろいろな色や形があり、石の数も人によって違います。

( slide No. 22 )  日本人では大体成人人口の10%、10人に1人ぐらいの頻度で石を持っているのではないかと言われております。欧米では全人口の10%ですから、もっと多い。結局、食べ物に占める脂肪の割合で、脂肪分をたくさん摂取する地域、例えば先進国では石も多くなります。女性のほうが男性に比べて2倍くらい多い。

 ここに示しているのは白いコレステロール結石ですが、これには一つの特徴があります。 Female(女性) 、Forty(40代) 、Fatty(小太り) 、Fair (色白) 、 Fecund(多産) 。頭文字から4Fとも5Fとも言われています。要するに40代の小太りの女性で色白の人に多い。この会場にも何人かいらっしゃるかもしれません。

 石がある人はみんな痛いかというと、 silent stone といって無症状胆石があります。石があっても痛くも痒くもないという方が結構いらっしゃって、半数ぐらいはいるのではないかと言われています。こういう人は石があっても一生無症状で終わることがあります。ところが一たん痛みだすと、たまらない痛みですね。だいたいその半分くらいの人、ですから全体の20%くらいの人で症状が出てくるのではないかと言われています。

( slide No. 23 )  本学の一外科では1992年からLC(laparoscopic cholecystectomy: 腹腔鏡的胆嚢摘出術) をどれくらいやってきたか推移をグラフにしています。年間だいたい 150〜170 例、女性(赤)が男性(青)より多い傾向がわかります。

( slide No. 24 )  どういう症例が多いかというと、先ほどの胆石症 (895)。慢性胆炎は結石がなくても胆嚢が何回も腫れて硬くなる病気で、痛みがありますから手術をしないといけない(74)。胆嚢腺筋腫は胆嚢の筋肉が厚くなる病気で痛みを伴います(41)。胆嚢にできたポリープ(98)。早期の胆嚢癌(21)。

( slide No. 25 )  年代では40代、50代、60代が多い。最高齢は92歳でした。摘出しなくてもいいのではないかという話もありましたが、痛がっていたのでやりました。

( slide No. 26 )  胆石症の治療でも肝臓にある石はどういうふうにして治療するか。肝臓の中の石は狭窄が原因ですから、肝臓を取らないといけない。肝臓の左葉にできやすいので、切除することがあります。

 胆嚢管は太いので、カメラを飲んで、十二指腸の入り口(乳頭)を広げて、ここからバスケットで石をつかんで引き出すことができますが、肝管にできた石の場合、非常に細い管なので、当然内視鏡的に石を取り出すことができない。内視鏡的に取り出す石は本管に限られます。それでも石が大きすぎて取り出せないという方もいます。あるいはここを切れない人では、腹腔鏡下でもしくは開腹して石を取り出して縫合することになります。

( slide No. 27 )  胆嚢に関しては本学の一外科では99%、腹腔鏡下で摘出します。この術式ができない1%の人だけ開腹術で取り出すことになります。勘違いされると困るのですが、胆石症は胆嚢が原因ですから、石だけでなく胆嚢も必ず一緒に摘出します。そうしないと再びできます。

 これはビデオでお見せますが、本管を切って石を取り出したところです(胆管切開切石術)。取った後は縫合します。

( slide No. 28 )  胆嚢管にできた結石には通常は腹腔鏡下でやりますが、この細い胆嚢管が何回も炎症を起こして太くなっている人がたまにいらっしゃいます。そういう場合はファイバーを入れて内視鏡的に石を取り出すこともできます(経胆嚢管的切石術)。後は胆嚢管をくくってしまうだけで、先ほどのように縫合する必要はありません。

( slide No. 29 )  また術式によって患者さんの在院日数が違ってきます。経胆嚢管的切石術では1週間ぐらいで帰宅できます(8.1日) 。胆管切開切石術の場合、だいたい10日ぐらい(9.8日) 。切った後にTチューブを入れると3週間ぐらい入院しないといけない (23.4日) 。だからなるべく早く帰宅できる方法が一番いいと思います。

( slide No. 30 )  開腹手術のほとんどは腹腔鏡下でもできます。胆嚢摘出、食道も作れますし、胃切除もできます。腸の手術もヘルニアも肝臓の一部も切れます。婦人科的な手術もできます。

 きょうのビデオでは胆嚢と総胆管にある結石の切石術、胃の早期癌の摘出術、産婦人科的な手術、さらに腹腔鏡を使った検査手法をお見せします。

( slide No. 31 )  手術が楽になると検査も楽にならないかといえば、検査も昔と比べれば数段楽になりました。一番しんどい検査の一つに血管造影があります。動脈にカテーテルを入れて血管を撮影するのですが、特に腹部の場合、太股の動脈から入れて、ずっと上行して、それぞれの臓器に行っている血管に造影剤を流して写します。その検査自体はもちろん麻酔もしますからしんどくないのですが、検査後、動脈を刺していますから押さえておかないといけない。検査なのに1日ずっと寝たままで動けないのが辛い。それが何とかならないかというのが一つあります。

 昔のCT検査を受けられた方がいらっしゃるかもしれませんが、CTはお腹を輪切りにして見る装置です。今までのCTでは1cm間隔で患者さんの断層画像を撮ろうとすると、1cm進めてCTを回す、またちょっと進めて回す。そういうふうに順番に撮っていたわけですね。1コマずつ動かしていると、コマ毎に10〜30分くらい要していました。

 ところが最近の高速らせんCT(スパイラルCT)では患者さんのベッドも動きっぱなし、CTも回りっぱなしです。そうすると、軌跡(CTで切られる面)はらせん状のネジ溝を切ったようになります。患者さんも動くので時間が非常に短く、ほんの1分足らずで終わってしまいます。これは患者さんにとっても非常に楽です。その他にもいろいろないいことがあります。

( slide No. 32 )  高速らせんCTを使うと三次元画像が得られます。試しに円筒の中にコイルを入れて、CTで三次元画像処理をすると、中身だけでも、外側の円筒だけでも、あるいは両方とも見ることができます。

( slide No. 33 )  どこのお医者さんに行かれても、たぶんこんな像をレントゲンフィルムで見せられます。これはDIC(drip infusion cholecystography)で、静脈から造影剤を入れて、それが肝臓に吸収されて肝臓から胆嚢に排出されたものを見ています。間接的に胆嚢を造影していることになりますが、これが胆嚢で、ここに石があって、ここに見えているのが本管かなあと、医者もぼんやり、患者さんも何となくわかります。

 これはERCP(内視鏡的逆行性胆管膵管造影)で、カメラを飲んで先ほどの十二指腸の出口(乳頭)から造影剤を直接流します。これは直接造影剤を入れているので、非常にクリアで、胆嚢管という細い管もわかります。ところがこれをやるためにはカメラを十二指腸まで入れないといけない。これは結構しんどい操作です。

( slide No. 34 )  もう一つはCTでお腹を輪切りにして見ると、ここに胆嚢があって、この白い部分が結石だということがわかります。これは輪切りにしたもの、先ほどのは縦斬りにしたものですが、いずれにしても画像は二次元平面です。ところが人間の体は三次元です。三次元のものを二次元にして見ていますから、医者はこの二次元の画像を見て頭の中で三次元に変換しています。それを理解するために皆さん何年もかけています。ですから、三次元を三次元画像として見ることができないかという希望があります。

( slide No. 35 )  血管から点滴するように40分くらいで造影剤を入れて、CTを30秒受けます。そうすると胆嚢があって、抜けているところが石で、これは本管です。こういう像以外に、画面上で画像がくるくる回って、上からも下からも横からも見ることができます。さらに、輪切りにしたり縦に切ったり横に切ったりできるので、格段に高度な情報が得られます。最近では苦しい検査をしなくても、点滴を受けてほんの30秒ぐらいCTに寝ているだけで、こんな画像が得られます。

( slide No. 36 )  胆嚢管と胆嚢がつながっていますが、そのつながり方がいろいろあります。正常につながっていればいいのですが、変なつながり方(走向異常)をしていることがあります。胆嚢管が低位で交わっている(B型)、後方旋回(C型)、前方旋回(D型)、これらに該当しないつながり方(I型)。普通ではない胆嚢管の入り方を異型と言いますが、17%ぐらいいます。僕らが胆嚢を手術するときに、手術前に先ほどのぼやっとした像よりも立体的な位置関係が情報として得られていれば、「手術のときにここに気をつけよう」というような利点があります。

( slide No. 37 )  血管造影ですが、太股からカテーテルを入れて腹部CTの造影をすると、肝臓に腫瘍があるということがわかります。ところがこれも平面像です。

( slide No. 38 )  同じように血管造影ですが、50秒間で造影剤を点滴して、24秒間寝ている間に画像が得られました。この検査は2分足らずで終わりました。腎臓、脾臓があって、大動脈があります。大動脈から脾臓に行く血管、肝臓に行っている血管、ここに門脈があります。肝臓に行っている血管が手に取るようにわかります(surface shaded rendering 法) 。

( slide No. 39 )  これをもう少し応用すると、白く見えているのが動脈、青く見えているのが肝静脈、ピンク色に見えているのが門脈、こういうのが臓器を透かして見ることができます。ここに何かあれば、こういう場所にこういう形のこういうものがあると描出されます(volume rendering 法)。この解像度があがってくるともう少し速く鮮明な画像が得られる、そういう時代が21世紀には来るであろうと言われています。

( slide No. 40 )  テレビでよく言われている virtual endoscopy(いわゆる仮想内視鏡)で、イラストのように見えますが、腸に腫瘤ができているのがわかります。腸の検査ではお尻からバリウムを注入されたり、ひどい場合には内視鏡を入れることもありますが、これは腸に空気を入れてCTを撮るだけです。腸と空気でこういう画像が作れます。例えば注腸法では、腸がどこかで詰まっていると、バリウムを入れてもそれより向こうにはいきません。空気は狭窄部を自由に通過して、空気の差だけで見ていますから、あたかも腸の中に人間が入っていくように追っていくことができます。この方法は気管支から肺癌を見つけるためにも使われています。

( slide No. 41 )  「鬼手仏心」、これは僕たち外科医として常に肝に銘じておかないといけない言葉です。手は鬼のように狂いもなくきちんとできる技術を持ち、心は仏のように、こうなりたいと心掛けています。最近はこの精神にはかわりありませんが、「機手仏心」になっています。

( video ) 「腹腔鏡下外科手術」
 腹腔鏡下外科手術をごらんになる機会がないと思います。これが手術場の風景です。これが炭酸ガスを送る器械で、これで中の圧力をモニターします。テレビが2台あって、カメラからの映像が写しだされます。

 臍のところを1cm切ります。小さな孔を開けて針を刺す要領で刺して、套管針の針先が腹腔の中に入っているかどうか、水を流して確認します。二酸化炭素を送り込むと、腹部が膨らんできます。そして圧力が常に一定になるように、こちらの器械で圧を監視します。

 次に套管針にカメラが入ります。これで腹部の内部を見ることができます。1本目を入れると、後はモニター画面を見ながらやっていきますので、最初が大事です。こちらの孔が10mm、こちらも10mmの孔です。2番目の管が入りました。

 変な手術ですね、術者が違うところを見てやっています。画面に出てきますが、5mmの3本目が入っているのがわかりますね。画面を見ながらやりますので、傷つけることはありません。4本目が入りました。こういうところからいろいろな道具を入れます。

例1:胆嚢摘出
 これが胆嚢です。胆嚢の片側は肝臓にぺちゃっとくっついています。これが胆嚢管で、これが本管の総胆管です。ここで胆嚢管を切らないと胆嚢は摘出できない。手術のときにこれが大事になります。胆嚢管を出しています。

 これは動脈です。錆びない体の中においても大丈夫なチタン製の金属クリップで両側をクリップした後、胆嚢を摘出してきます。2年くらい前まではこのクリップを使っていましたが、害がないとはいえ金属を体内に残すのはよくないので、今では3カ月ほどで自然になくなってしまう吸収クリップを使って残さないようにしています。

 ここにくっついている胆嚢を、高周波が通じている電気メスで組織を止血しながら剥がします。

 こういう映像をあまり見る機会がないと思います。手術を受けた方全員のビデオを一応撮っていますが、残念ながら当事者で見たいとおっしゃった方はいません。

 これで最後ですね、摘出されます。

 問題は摘出した後です。胆嚢を袋に入れて外に出すわけですが、胆石が1cm以内の大きさなら、理屈として1cmの孔から出せます。ところが2cmの石は出せない。石を砕く方法もありますが、やはり2cmぐらいの石の方は傷も2cmになります。これは仕方ないかと思います。

 摘出した後、肝臓に出血がないか、どこか傷をつけていないか、水を流して十分洗いながら確かめます。きれいですね。これで終わればいいのですが、一応念のためにドレーン(排液チューブ)を1日だけ入れておきます。万が一手術の後に出血しても、これを通して体の外に出ますので、お腹のことがわかります。次の日にこれは抜きます。

 皆さんが癒着も何もないこんなにあっさりした簡単な手術ならいいのですが、胆石の方は結構我慢して放ったらかしにしている方もいます。そういう方が大変です。

例2:癒着した胆嚢の摘出
 40歳の男性で、今まで何回も痛かったのにずっと放ったらかしていて、いても立ってもたまらなくなって受診されました。

 癒着しているのがわかりますか。このような場合が苦労するんです。くっついています。まずここに入れるために剥がします。先ほどの人は胆嚢が見えていましたが、この人の場合は胆嚢探しから始めます。全部癒着していますね。何が癒着しているかわかりません。腸が癒着していると、剥がしたときに腸を傷つけないか。そうなると大変ですね。

 手術は癒着のある方とない方では全然時間も違うし、術者のストレスも全く違います。癒辰里任垢、放ったままにしています。

 權  先ほど言いましたように、無症候性というのがあります。考え方にもいろいろありまして、昔はお腹を切るのをためらいました。最近は半数は無症状で、一生無症状のこともあります。

 ただ2つのことが指摘されています。お歳を召したときに症状が起こってくるとひどくなる。もう一つは石を持っている人が60歳を超えると、悪いものが合併する確率が高くなると言われています。そういう意味合いから、積極的ではないのですが、患者さんが非常に心痛ためておられたら、「小さな傷で済みますから手術をしたらどうですか」と勧めることはあります。石を持っているから必ず手術をしなさいとは言いません。

質問(続) 今はすごく元気でテニスもやっています。何もないんですが、たまっているよと言われると、これを取ると体重も減るのではないかと思ってしまいます。

 權  ただ定期的に検査を受けたほうがいいと思います。何度も言いますが、悪いものが隠れている場合があり得ますので、それだけは注意されたほうがいいと思います。

質問(続) 手術をするとすれば体調のいいときがよろしいですね。

 權  もちろんそうです。急に痛くなって、全身状態が悪くなって来られるよりは体調がよいときのほうがよろしいです。

質問2 2点あります。腹腔鏡下手術のデメリットが出ていました。これは新聞を漠然と読んでいて記憶が定かではないのですが、手術して2、3日後に肺がつまって死亡するような、急性の状態で亡くなることがあると読みました。

 もう1点は胆石は遺伝でなるのか後天的な食事などの原因が大きいのでしょうか。

 權  初めの質問は深部静脈血栓かと思います。長い間飛行機に乗っていると、血栓が飛んでしまう「エコノミークラッシュ症候群」というのが話題になっています。こういう手術をするとお腹に圧がかかって、足から血の帰りが悪くなります。そのとき、深部静脈に血の塊ができて、それが肺に詰まると肺梗塞になって急死することがあると言われています。

 欧米人には深部静脈血栓という病気が多いのですが、幸いなことに日本人には比較的少ない。手術時にはそういうことを起こさないように、足を定期的にマッサージするとか、足を包帯で縛るとかいろいろ対策をしていますので、本学では少なくもありません。それが非常に多いとは申しませんが、そういう危険も一つ考えられます。

 もう一つはガスを使いますので、ガスが血管の中に入ってしまうと悪い影響があります。この手術が始まった当時、浜松で事故が起こりました。針を刺したときに血管に入ったことがわからずに二酸化炭素を送って亡くなられました。それでこの手術法は終わりかと思われましたが、それは非常に珍しいことです。ただ危険性としてそういうことはあり得ると思います。

 2番目の質問ですが、一番大事なのは食生活です。もう一つは肝臓にあるコレステロールを作る酵素の多少が遺伝的に左右されて、コレステロールを作りやすい方は結石ができやすいとも言えます。それから女性に多いことや妊娠を契機に起こしやすいことから、やはりホルモンが関係しているだろうと言われております。それらの中でも大きな原因は食生活で、遺伝のしめる部分はそんなに大きくないと思います。  質問3 私は3年前にここで胆管の手術をして切りました。その後、いまだにちょっと食べすぎたと思うと戻ってきます。それはいつまで続くのでしょうか。

 權  人間のお腹の中で必要でない臓器はまずないと思います。胆嚢も本来その役目を持っていたはずです。切除すると当然、胆嚢の濃縮する機能がなくなるわけですから、たくさん食べるとか油っこいものを食べると消化が追いつかなくなるので、下痢や腹痛を起こしたりします。

 それでもだいたいの場合、体のほうが慣れます。1000何例の患者さんを見ますと、一〜二月くらいはそういうことがありますが、あとはご自分で注意されることもあり、体が慣れてしまうこともあります。胆嚢がなくなっても本来の胆汁が流れるルートはありますので、体のほうが調整してくれて、日常生活に差し支えないという方がいらっしゃいます。

 ところが、胆嚢を取った後でおっしゃるような症状の残る方が統計上5%ぐらいいらっしゃいます。これには胆摘後症候群という名前も付いて、原因もいろいろ言われています。手術した方のほとんどにこういう症状が残るようなら、手術をしなくてもいいと思いますが、ほとんどよくなります。一方で、今でもそういうことで悩まれる方がいるのも事実ですから、そういうこともありますと説明いたしますが、それが何年かかるか。1年でよくなる方もいれば、一〜二月でよくなる方もいます。薬を処方しながら、もう少し様子を見られますかとお話しします。

質問(続) ではまだしばらく薬を飲んでいたほうがいいようですね。

司 会 どうも權先生、ありがとうございました。

この講演記録は、ボランティアの方が録音から起こした筆記録のディジタルファイルをもとに作成されたものです。
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