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関西医科大学第3回市民連続公開講座
「生活習慣と糖尿病−合併症を防ぐ療養のコツ−」
西川 光重(関西医科大学内科学第二・教授)
平成12年(2000年)12月2日(土)14時00分〜15時00分
関西医科大学南館臨床講堂
司会 松原助教授(内科学第二)
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司 会(松原弘明・関西医科大学内科学第二・助教授) 市民連続公開講座は3年前に始まって、3回お会いしていますね。今回はその3回目で、第二内科教授の西川光重先生と第一外科の權先生にお話をうかがいます。最初は西川教授から「生活習慣と糖尿病−合併症を防ぐ療養のコツ−」のお話です。西川教授は昭和49年に京大を卒業され、本学第二内科で甲状腺、糖尿病等を専門にされておられます。外来は火曜と木曜、金曜の午後に甲状腺外来をされております。糖尿病で治療されている方がいらっしゃれば講演の後でご質問をお受けします。それではよろしくお願いいたします。

西 川(関西医科大学内科学第二・教授)  皆さん、こんにちは。こうして拝見しますと、お若い方からお年寄りの方まで老若男女、いろいろな方がおられます。この講座も3日目でいろいろなことを勉強されていると思います。日本も長寿国になり、円熟期、高齢期あるいは中年期をいかに元気に過ごすかということに興味があって来られた方も多いかと思います。私はきょうは元気で長生きをすることを究極の目的としてお話をしたいと思います。

( slide No. 1 ) 私は糖尿病や生活習慣病、それから内分泌疾患を中心に担当しています。私が携わっている糖尿病を一つのキーワードにして「生活習慣と糖尿病」、具体的にはいかに老齢期あるいは中年期を合併症なく有意義に健康に過ごすかということを目的にしてお話をしたいと思います。

( slide No. 2 )
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 生活習慣と糖尿病
 ・糖尿病とは
 ・生活習慣病と成人病
 ・肥満
 ・糖尿病の診断
 ・糖尿病の治療
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 きょうお話する具体的な内容です。まず糖尿病について概略的にお話しします。それから糖尿病は生活習慣病の親玉みたいな病気です。「生活習慣病」をお聞きになった方も、「生活習慣病は知らない。成人病なら知っている」という方もおられると思います。そのような生活習慣病や成人病とはどういうものかということをお話しします。また厚生省から生活習慣病を克服しようと「健康日本21」というスローガンが掲げられておりますので、そのお話をします。生活習慣病あるいは糖尿病、どちらも元凶として肥満が非常に重要になります。その肥満に関してお話をします。それから実際的な糖尿病の診断、治療に関して具体的なお話をしたいと思います。

( slide No. 3 ) まず糖尿病とは何か。糖尿病は医学英語で diabetes mellitus、これを日本語に訳したものです。 diabetes を業界では diabeと言いますが、diabe はギリシャ語でサイフォンという意味です。おしっこがどんどん出る、多尿という症状を示します。 mellitus は honeyと同様で蜂蜜のように甘いという意味です。昔、おしっこを舐めると甘かったので、「甘いおしっこ」の病気から「糖尿病」と言われていました。

 尿に糖が出る、その原因として血糖が高い。初めは原因がわからなくてやせ細って死んでいったのですが、インスリンという膵臓から分泌されるホルモンが不足していることが糖尿病の原因であるということがはっきりわかりました。ただ後でお話ししますが、インスリン不足にも2つの型があります。(1) インスリンがほとんどなくなってしまう、絶対値が不足してしまう方と、日本人の大部分が該当するのですが、(2) インスリンはある程度出ているにもかかわらず効かない、作用が不足する2つの型があります。

 症状としては口渇、多飲、多尿があります。喉が渇いて、なんぼでも水を飲んで、おしっこで出てしまいます。

( slide No. 4 )
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 糖尿病の重要性
  ・急性合併症
  ・慢性合併症
     細小血管症/大血管症/その他
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  喉が渇けば水を飲めばいいのですが、糖尿病で怖いのはその結果として数多くの重要な合併症が出てきます。具体的には急性合併症、慢性合併症があります。

( slide No. 5 )
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 糖尿病の合併症(1)
  ・急性合併症
   −ケトアシドーシス昏睡
   −非ケトン性高浸透圧性昏睡
  −低血糖
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 急性合併症と慢性合併症がありますが、急性合併症は一言でいうとインスリンが足らなくなって意識消失、昏睡という状態になります。インスリンが絶対的に不足すると体のpHが酸性化、アシドーシスになります。その結果、頭の働きがおかしくなって、意識をなくして死んでしまいます。昔の糖尿病のかなりの方はこれで死んでいましたが、今から80年ほど前、1921年にカナダのトロントでインスリンが発見されました。その功績で1923年に Banting博士と MacLeod博士がノーベル賞をもらわれましたが、インスリンが発見されてから、ケトアシドーシス昏睡で亡くなる方が非常に少なくなりました。

 その他、インスリンが全くなくなるまではいかないけれども、お年寄りの方では血中の糖があまりに高くなりすぎて浸透圧が高くなって昏睡になることもあります。 低血糖は糖尿病自体の合併症ではありませんが、治療薬によって低血糖になって意識をなくすこともあります。

( slide No. 6 )
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 糖尿病の合併症(2)
  ・慢性合併症
   −細小血管症(糖尿病特有)
   -糖尿病性腎症:腎不全→人工透析
   -糖尿病性網膜症:失明
    -糖尿病性神経症:しびれ、立ちくらみ、勃起障害
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 インスリンが発見されて以降、急性合併症は治療をうまくやればまず防ぐことができます。しかし本当に怖いのは慢性合併症であります。慢性合併症にもたくさん種類があります。大きく分けて、細小血管症と大血管症とその他になります。糖尿病性細小血管症 (diabetic microangiopathy) は糖尿病に特有の大事な合併症で、大血管症は必ずしも糖尿病に特異ではありません。

 大きく分けると糖尿病性腎症、糖尿病性網膜症、糖尿病性神経症の3つです。糖尿病で腎臓がやられると糖尿病性腎症になります。腎臓の機能がだめになる状態を腎不全と言いますが、こういう状態になると人工腎に頼らないと生命が維持できません。現在、全国で20万人の方が人工透析を受けておられますが、人工腎にかかる原因で一番多いのが糖尿病性腎症です。糖尿病性網膜症は去年、この講座で松村教授がお話ししたと思いますが、成人の失明に至る原因で一番多い。命も危ない、眼も危ないということで非常に大事な合併症です。糖尿病性神経症には非常に頑固なしびれとか立ちくらみ、勃起障害などの性機能障害もあります。このような糖尿病特有の細小血管症が一つの慢性的な合併症として挙げることができます。

( slide No. 7 )
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 糖尿病の合併症(3)
  ・慢性合併症
   −大血管症
   -虚血性心疾患(狭心症、心筋梗塞)
   -脳血管障害(脳卒中)
    -閉塞性動脈硬化症
   -糖尿病性壊疽
  ・感染症など
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 さらに大事な合併症が幾つかあります。それは大血管症と呼ばれるものですが、糖尿病にしかない合併症ではありません。動脈硬化はいろんな人で発症して進展しますが、糖尿病があると大血管症(動脈硬化)は非常に進みます。2倍も3倍も進みが早い。そういうことが起こると、まず心臓がやられて、狭心症、心筋梗塞などが起こります。脳の血管がやられると、脳卒中、脳出血や脳梗塞など大変なことになります。それから閉塞性動脈硬化症、例えば足の太い動脈が詰まりかけると、少し歩くと痛くて歩けないということがあります。

 このように、糖尿病は実は血管の病気なのです。全身の血管が侵されてもろくなったり出血したりして、多くの重要臓器の機能がだめになります。いろいろな合併症から、命を取られたり手足が動かなくなったり眼が見えなくなったりして、大変なことが起こります。

 糖尿病に特有というわけではありませんが、糖尿病の人によく起こる症状として糖尿病性壊疽があります。これは後でスライドでお示しします。足に潰瘍を起こして手術で取り除かないといけない。そういう感染症の成れの果てのようなことが起こります。

 また、糖尿病になるとリンパ球の機能が悪くなって、風邪からすぐに肺炎になるような、重症感染症を起こすことがあります。

( slide No. 8 ) これは糖尿病患者さんの足指の写真です。ここの指は爪もなくなっていますし、ここがひどくなっています。もともとは靴擦れか何かでちょっとした傷があったそうですが、だんだん進行してこんな状態になって入院していただきました。

( slide No. 9 ) 指同士がひっついていてわからないので開くと、潰瘍になって皮膚がただれてなくなっています。よく見ますと、この下には骨が見えています。レントゲンを撮ると骨が溶けてきています。このスライドではわかりませんが、指先を押すとぐらぐらして、ほぼ取れてきている状態ですね。

( slide No. 10 )  この下は非常に深い潰瘍になっていて、こうなるとどうしようもなく、手術してこの骨を落とすことになります。

( slide No. 11 )  別の人ですが、足の小指と薬指を切り落としています。さらにひどくなると足首から落とす人もいますし、膝関節から下を落とさないと命が危ないという人もおられます。糖尿病性壊疽は血管が詰まってきて足が腐ってきます。

( slide No. 12 )  これも、足底のタコからその後感染して大変な潰瘍を作っています。このようなことも結構起こります。血管障害があって感染して、その後、潰瘍が治らない。この人も最悪の場合、足首から下を落とさないといけない。こういうのが糖尿病の足病変の代表的な症状です。

 以上が糖尿病の概略で、血糖が高いだけでなく、いろいろな合併症が起こります。

( slide No. 13 )  これから生活習慣の話をしますが、まず人類の進化と生活習慣の話をしたいと思います。
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 人類の進化と生活習慣
  400万年前  00:00:00  人類誕生
   4万年前    23:52:48  新人(ホモサピエンス)
  9000 年前  23:56:46  新石器時代
   2000 年前  23:59:16  キリスト誕生
   1945 年    23:59:59  第二次世界大戦終戦
   1995 年〜            高度成長期
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 今から約 400万年前に人類が誕生して、それからどんどん進化して現在の私たちになります。昔は石器しかありませんので、採取、狩猟、漁労などで糧を得ていました。4万年ぐらい前にホモサピエンスに進化して、この頃から粗末な家や服を作っています。9000年前に初めて新石器ができて、この頃から農耕部落を作ったり牧畜をしたりして食物を生産するようになります。それまでは単に拾ってきたりしていたわけです。その後、人類社会は進歩して金属器時代があって現在に至っています。

 これまでの人類の生活を考えると、食物がなくて飢餓の生活を送ってきました。ないときはずっと耐えるしかなかった。9000年前から食物を作るようになっても、やはり十分な食物は得られていない。こういう状態がずっと続いています。飽食の時代と言われて、十分食べ物があるようになったのは1955年頃からです。

 人類の進化の面から考えてみると、昔から飢餓に慣れてきて現在に至っているわけですが、言い換えれば飢餓の状態に耐えられない人種は滅び、飢餓に耐えられる人種が勝ち組として生き残ってきたと言えます。

 この4000万年前を午前0時、現在を24時とすると、ホモサピエンスまで進化したのが23時52分48秒。紀元は23時59分16秒になります。第二次大戦が終戦して食物が十分にあるようになったのが何と23時59分59秒です。ですからほんの最後の1秒だけで我々人類はごはんを十分食べられるようになったわけです。

 飢餓に耐えられるような遺伝子を持った人間が一生懸命進化してきたので、私たちはそういう飢餓に耐えられる遺伝子を持っています。そういう人類が最後だけ飽食できるようになると、人間の生活習慣に人類の進化が全く追いついていない。ですから、ここ10年、20年で生活習慣病がいっぱい出てきたと騒いでいるのは当たり前のことです。飢餓に耐えられるような遺伝子は今まではいい遺伝子でしたが、今となっては悪い遺伝子となって作用しているという背景があります。

( slide No. 14 )
 
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 節約(倹約)遺伝子(1962年提唱)
 ・β3 アドレナリン受容体の遺伝子多型(1985)
  ・PPARγの遺伝子多型(1988)
  ・カルパイン10の遺伝子多型(1999)
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 ですから人類の進化を考えてきた遺伝学者は節約遺伝子という概念を考えていました。これはエネルギーを節約(倹約)できる、飢餓に耐えられる人種のみが生き延びて今日があるという考え方です。この遺伝子の概念は1962年頃にニールという遺伝学者が初めて報告し、当時はそのようなものがあるだろうとだけ考えられていました。

 ところが最近は遺伝子が非常に解明され、具体的な遺伝子がわかるようになりました。詳しいことは省きますが、β3 アドレナリン受容体は脂肪細胞にある膜受容体です。これがある種の型では脂肪分解、熱産生があまり起こらない。つまり脂肪を燃やさずに蓄積する機能がある受容体となり、この受容体遺伝子(節約遺伝子)を持っている人は飢餓に耐えられるわけです。日本人にはかなり多く、20%います。糖尿病をよく起こすことで有名な Pima Indianに次ぐ世界で2番目に多く、この遺伝子を持っています。

 今まではこの倹約遺伝子を持っている人は飢餓に耐えられる優秀な人種でしたが、今となってはこの遺伝子は生活習慣病の悪玉遺伝子になります。

 その他、多くの遺伝子多型が発見され、結論的には日本人はこういう遺伝子をたくさん持っています。アメリカ人に比べて日本人は節約型です。向こうの人は昔から肉をたくさん食べております。それに対して日本人は農耕民族で穀類をたくさん摂取していたので、節約遺伝子がたくさんできています。だからアメリカ人に比べて日本人は糖尿病に倍なりやすい。それはこういう遺伝子を日本人は白人に比べてたくさんもっているからであるというのが一つの原因です。

( slide No. 15 )  現在の日本人の平均寿命は80歳と世界一です。昔は結核が主な死因でしたが、最近は脳血管障害、心疾患、癌などが死因の一番になります。ですからこのへんの克服が現在の日本で一番大事な課題になっております。

( slide No. 16 )
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 病気の発症要因
  1. 遺伝(遺伝、加齢など)
    単因子疾病、多因子疾病
   2. 外部環境(病原体、有害物質など)
    感染症、物理化学的要因
  3. 生活習慣  栄養過多・過少、         
        食塩、喫煙、アルコールなど
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 病気が起こるには、遺伝、外部環境、それから生活習慣の3つの原因があります。遺伝には、ある種の遺伝子があれば必ずその病気になる単因子疾病と、いろいろな遺伝子が集まって初めて発病する多因子疾病があります。きょうお話しする糖尿病、高血圧、癌などはこの多因子疾病の代表です。糖尿病になりやすい家系、癌になりやすい家系など、ある程度遺伝性があります。

 そういう遺伝の他に、外部環境、例えば感染症や物理化学的な要因があると発病します。

 またかなりのパーセントで生活習慣で発病することがわかっています。それには栄養の摂り過ぎ、摂りなさ過ぎ、食塩、喫煙、アルコールなどが関係しています。

 外部環境に関しては抗生物質が発達し、有害物質などは自分の注意で避けることができます。遺伝子はしょうがない。そうすると、残りの生活習慣を克服すればかなりの病気が予防できることになります。

( slide No. 17 )  そういうことから、現在、国を挙げて生活習慣病の克服を掲げております。次のテーマとして「成人病」から「生活習慣病」へ。

( slide No. 18 )
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 成人病(昭和30年頃、厚生省)
  ・がん・心疾患・脳血管障害
  ・高血圧・糖尿病・高脂血症
    → 早期発見・早期治療、
       検診・ドックの普及
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 「成人病」という言葉はご存じですね。これは医学用語ではなくて、昭和30年頃に厚生省が言いだした行政の言葉です。厚生省が、癌、心疾患、脳血管障害、高血圧、糖尿病、高脂血症は40歳以上になると発病しやすいということから「成人病」と名付けて、早期に発見して早期に治療しよう、そうすれば成人病を克服できるだろうということを考えました。具体的には市民検診や会社検診、あるいはドックに入りましょうと検診を進めて、このような病気を克服しようとしております。こういうのが成人病の概念です。

( slide No. 19 )
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 生活習慣病(平成8年〜、厚生省)
  ・虚血性心疾患・高血圧・高脂血症
  ・脳卒中・糖尿病・がん
    → 一次予防、「健康日本21」
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 それに対して「生活習慣病」も厚生省の諮問審議機関がいろいろ研究して、平成8年頃から厚生省が言いだした言葉です。取り上げた疾患は虚血性心疾患、高血圧、高脂血症、脳卒中、糖尿病、がんです。よく見ると、順番が違いますが一緒です。昭和30年からこのような病気を克服しようと、厚生省の役人は同じことを言っています。

 ですから成人病と生活習慣病は一緒ですが、その心が違います。「生活習慣病」という言葉を持ってきて厚生省は「発症を予防しよう」と具体的な数値目標に掲げて、「健康日本21」−−21は21世紀だそうですが、というキャンペーンを張っています。

( slide No. 20 )  平成8年頃から言われていますが、「健康日本21」として具体的にことしの4月頃から出ています。皆さんにお配りしたプリントの一番最後とその前の2枚に「健康日本21」の概要をプリントしています。いろいろなことが項目として挙げられています。その概要の概要をスライドでお示しします。

 「健康日本21」は(1) 生活習慣を改善しましょう、(2) 危険因子を少なくしましょう、(3) 検診を充実させましょう、そういうことをした上で疾病等を減少させましょうということを唱えております。

( slide No. 21 )
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 健康日本21 −生活習慣の改善−
     栄養・食生活/運動・身体活動/休養・こころの健康/アルコール/歯科
 −危険因子の低減など−
     栄養・食生活/成人喫煙率を男女とも半減させる/循環器/
    糖尿病有病率の減少/検診の充実
 −疾病などの減少−
     循環器病の減少/がん死亡・罹患者数の減少/
    糖尿病合併症の発症を減少/自殺者を減少/歯科
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 まず生活習慣の改善では、皆さん方のプリントにもいっぱい項目があります。栄養・食生活、休養・こころの健康、アルコール、歯科のことも書いています。例えば脂肪エネルギー比率を少なくしよう。ストレスを少なくしよう。アルコールを少なくしよう。甘いものを少なくしよう。

( slide No. 22 )  危険因子の低減では、適正体重を維持しよう。たばこを少なくしよう。血圧を下げよう。検診をふやそう。

( slide No. 23 )  その結果、脳卒中、虚血性心疾患などの死亡率を36%減少させよう。癌、糖尿病、自殺、歯科のこのようなことを改善しようと言っております。具体的には厚生省の言うことですからちまちました話になりますが、割に具体的なことを書いていますので、時間があるときにゆっくり読んでいただければと思います。

( slide No. 24 )
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 標準体重
  ・肥満度(%)=((実測体重−標準体重)/標準体重)x100 
 ・Broka 桂変法標準体重=(身長(cm)-100)x0.9 
 ・Body mass index(BMI)= 体重(kg)/(身長(m))2 
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 次に肥満についてお話をします。肥満は生活習慣の一つの現れでもあり、糖尿病、高血圧、高脂血症など、いろいろな疾患の温床でもあります。どういうのを肥満とするか、医学的な定義があります。

 標準体重を求めて、それを今の体重との比をとって肥満度を表します。 body mass index(BMI)は体格指数とも訳されますが、体重を身長の2乗で割った数値です。最近は我々はこのBMIを用います。

( slide No. 25 )
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 肥満の基準
            やせ        普通      過体重    肥満  
 肥満度  -10%未満   -10〜+10%   +10〜20%  20%以上
 BMI  19.8未満  19.8〜25未満           25 以上
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 肥満学会で幾ら以上を肥満とするか基準を決めています。それは肥満度では20%以上、BMIでは25以上を指します。単に肥満しているだけでなく、肥満の結果、病気が起きてきていることを「肥満症」と、「肥満」と「肥満症」を区別して考えます。先ほど言いました式でBMIが25以上は要注意になります。

( slide No. 26 )  最近BMIが注目されていると言いましたが、医学的根拠があります。病気になりやすさを縦軸にBMIを横軸に取ると、やせ過ぎていても肥えすぎても病気になる、U字型カーブが女性でも男性でも疫学上得られています。一番病気になりにくいのが男性も女性も22ぐらいです。こういうことからBMIが注目されてきて、BMI22が理想的な体重になります。

( slide No. 27 )  肥満になるといろいろな病気が起こりますし、生命保険会社の統計では、50%以上の肥満では死亡率は2倍になります。肥満は防がないといけない。

( slide No. 28 )  ただし肥満にもいろいろな形があります。上半身型肥満(別名腹部型、リンゴ型、男性型)は男性に多く、女性型の下半身肥満(別名臀部型、洋梨型、女性型)の2つがあります。ヒップに対してウェストが大きいのが上半身型肥満で、ヒップの大きいのが下半身型肥満です。

( slide No. 29 )  上半身肥満をさらに内臓脂肪型肥満と皮下脂肪型肥満の2つ分けます。皮膚の上から摘めるのが皮下脂肪ですね。内臓脂肪はコンピューターレントゲンを撮って解析しないとわかりませんが、腸の周りに付いている脂肪を言います。皮下(S:subcutaneous)に対して内臓(V:viscus)の脂肪の比率(V/S) が 0.4以上を内臓型肥満、0.4 未満を皮下脂肪型に分類します。このように分類すると、内臓型は糖尿病、高脂血症、脂肪肝、高尿酸血症などの病気を起こしやすい。

( slide No. 30 )  上半身肥満と下半身肥満に分けて、上半身肥満をさらに皮下脂肪型と内臓脂肪型に分けます。問題は病気になりやすさです。皮下に脂肪が付いている女性型肥満は大したことはありませんが、上半身型でお腹につく内臓脂肪型は病気になりやすいので注意する必要があります。

( slide No. 31 )  肥満も結構難しくて、いろいろな原因があります。ネズミに同じ食事を3回に分けて食べさせるのと1回で食べさせるのとでは、1回のほうが圧倒的に太ります。(1) 過食、同じ量でも(2) 摂食パターンの異常で太ります。(3) 運動不足も(4) 遺伝も明らかにあります。

( slide No. 32 )  どれだけ食べるかというのは動物的には視床下部に摂食中枢と満腹中枢がありますし、大脳皮質の意識でも食欲は制御されています。

( slide No. 33 )  肥えている人に話を聞きますと、自分はそんなに食べていないという人が多いのですが、実は食べていますね。肥満者の摂食行動について心理学的な研究がやられています。テレビを見ながら、おしゃべりをしながら食べる「ながら食い」。ストレスが非常に強いと痩せますが、ストレスがあると「気晴らし食い」をして肥えてきます。「いらいら食い」、「無茶食い」。それから「不規則な食事時間」、「欠食」。これらが肥満者に見られる摂食行動として挙げられています。一応ご理解していただいたほうがご自分の摂食行動とマッチするかと思います。

( slide No. 34 )
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 肥満の型と生活史
  ・脂肪細胞増殖型肥満
      脂肪細胞数の増加
        胎児期/乳児期/思春期
  ・脂肪細胞肥満型肥満
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 脂肪細胞の数がふえてくる肥満と、1個の脂肪細胞に脂肪がたくさんつく肥満の2つの種類があります。細胞数がふえてくる時期として、胎児期と乳児期と思春期の3つの危険期間があって、このときにふえるとなかなか治らない。胎児期では生まれる赤ちゃんに対しても妊婦の体重管理が重要になります。乳児期あるいは思春期の食生活も非常に大事になります。

( slide No. 35 )
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 糖尿病診療の最近の考え方
  ・診断基準の変更
    -1型、2型糖尿病
   -病型と病期の考え方
  ・治療の進歩
    -経口薬の開発
   -インスリン投与法の進歩
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 これから具体的な糖尿病の診断と治療の話をいたします。

 糖尿病は昔からある病気ですが、最近、診断基準が少し変更されて、1型、2型と考えていただきます。治療は最近はかなり進歩してやりやすくなっています。私は医者になって20何年になりますが、昔は糖尿病薬はほぼ一つでインスリンも打ちにくい製剤しかありませんでした。

( slide No. 36 )
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 糖尿病の診断
  ・「糖尿病型」の判定(下記のいずれか)
    -随時血糖200mg/dl以上
   -空腹時血糖126mg/dl以上
    -75gGTTで2時間値200mg/dl以上
  ・糖尿病の診断(下記のいずれか)
    -別の日に「糖尿病型」を確認
    -「糖尿病型」で、かつ特徴的な症状あり
    -HbA1c 6.5%以上
   -糖尿病網膜症あり
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 血糖値は正常から高い人まで連続的な流れでありますので、どこから糖尿病と診断するか。日本あるいは国際的に認められたちゃんとした基準があり、医学的に合併症の起こりやすさから線を引いています。それは空腹時血糖、朝食事をする前の血糖値が126mg/dl以上。どんなときでもいいのですが、1回測った血糖値が200mg/dl以上。75gのGTT(glucose tolerance test:ブドウ糖負荷試験) をして2時間値が200mg/dl以上。このいずれかがあると「糖尿病型」と判定します。

 1回測っても再現性が乏しいので、もう一度この基準のどれかを満たした時点で初めて「糖尿病」と診断します。その他、特徴的な症状や眼の所見があれば糖尿病と診断します。血糖ではこういう数字が基準になります。126 ght">

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 合併症を予防するための食事
 ・適正なエネルギーをとる
  ・食塩をできるだけ減らす
  ・コレステロールや飽和脂肪酸を減らす
  ・食物繊維を多く摂る
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具体的には適正なエネルギーで食塩と油分を減らして繊維を多く摂るということです。

( slide No. 50 )  一般的に1300kcalぐらいが基本的必要量です。これ以上は各人の生活に応じて摂る必要があります。具体的な献立は市販されている糖尿病食品交換表を参考にします。エネルギーの計算は大変ですが、一度は“はかりを実際に使って”食べているものを計算してみることが必要です。

( slide No. 51 )  これは私が毎日食べているご飯ですが、お茶碗に軽く1杯のご飯は 160kcalです。これを基本にして、160kcal を2単位、80kcalを1単位と数えます。普通にご飯を盛ると 230kcalで、丼ご飯では 440kcalです。

( slide No. 52 )  ポッキーをこれくらい食べるとご飯1杯と同じくらいのカロリーです。外食やお菓子などは食事療法の大敵です。最近はこれらにエネルギー量が記載されるようになってきていますので、それらの数字に興味を持って食事療法を実践することが重要になります。

( slide No. 53 )  マネネーズも高エネルギーで、大さじ2杯(30g) でご飯1杯分(2単位)です。

( slide No. 54 )  バターを20g(大さじ 1.3杯)パンに塗るとご飯1杯分(2単位)です。

( slide No. 55 )  油ものも非常に多くて、カツに含まれる油分はご飯1杯くらいになります。(植物油20g(大さじ軽く2杯)で2単位)

( slide No. 56 )  非常に注意すべきはインスタント食品ですね。日清焼きそばを食べるとご飯3杯半(7単位)あります。夜食にご飯を2杯食べても半分しかならない。それくらいのカロリーの差がありますので、インスタント食品には注意してください。

( slide No. 57 )
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 外食の注意
 ・1日の総エネルギーを知る
  ・栄養バランスを考える
  ・塩分を控える
  ・食物繊維をとる
   コレステロールの排泄、糖吸収抑制、
   Kによる塩分排泄促進
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 外食するときの注意で1日の総エネルギーを知っておくほうがいいでしょう。例えば 170cmの人の1日の必要総エネルギーは、標準体重1kgあたり30kcalとして、BMIを用いて計算すると、1.7(m) x 1.7(m) x 22(BMI) x 30 = 1900kcal/day となります。その他、栄養バランスを考えて外食をする等々があります。

( slide No. 58 )
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 外食のエネルギー量を知る
 1.ロースかつ定食        1,100kcal
    ヒレかつ定食            800kcal
 2.フレンチフルコース    1,400kcal
        a )ポタージュスープ  160kcal
        a')コンソメスープ       7kcal
     b )アイスクリーム     200kcal
       b')シャーベット       100kcal
 3.焼き魚定食              580kcal
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 フレンチフルコースを食べると、これだけで1日分のカロリーになります。かつ定食でも、油分を控える必要があります。焼き魚定食はこの程度のカロリーです。スープあるいはデザートを注意するだけでもカロリーが減ります。

( slide No. 59 )
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 経口血糖降下薬
 1.インスリンの分泌を刺激
       SU薬/フェニルアラニン誘導体
 2.インスリンの作用を増強
    チアゾリジン誘導体/ビグアナイド薬
 3.糖の吸収を遅延
    αグルコシダーゼ阻害薬
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 糖尿病の薬にはいろいろ種類があります。インスリンの分泌を刺激する、作用を増強する、糖の吸収を遅延するような薬が最近非常にふえております。それぞれ特徴があり、患者さんの症状などに応じて使い分けられます。ドクターの説明をよく聞いて、納得して服用することが必要です。

( slide No. 60 )  最近の考え方として血糖は高いくてもいいのではないか。怖いのは合併症だから、合併症さえ治療すればいいという考えで、アルドース還元酵素阻害薬(エパルレスタット、SNK-860)、終末糖化産物(AGE)阻害薬(アミノグアニジン、OPB-9195)、PKCβ阻害薬(Ly333531) などが、記号で書かれているものはまだ発売されていませんが、今後出てくるかもしれません。

( slide No. 61 )
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 インスリン療法
 ・インスリン製剤の進歩
   ヒトインスリン
    リスプロ(超速効型:Lys(B28)Pro(B29))
    食前注射
 ・インスリン投与法の進歩
   ペン型/使い捨てペン型
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 インスリン製剤もいろいろありますし、最近は非常に使いやすくなってきました。一度インスリンを使うと一生手放せなくなるということでもありません。インスリンが必要なときは躊躇せずに使用するほうがよいでしょう。

( slide No. 62 )
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 血糖コントロールの目標値
                        優     良          可       不可
  HbA1C (%)        <5.8  5.8-6.5    6.6-7.9      8.0以上
 空腹時血糖(mg/dl)   <100  100-119  120-139   140以上
  食後2時間値(mg/dl) <120  120-169  170-199   200以上
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 血糖は変動しますので、血糖コントロールの指標としてHbA1cが一番覚えやすいと思います。簡単に体温と覚えてください。体温が 6.5℃以下であれば正常。8℃もあれば非常に悪い。HbA1cが10%というのは40℃くらい熱があると思ってください。

( slide No. 63 )  以上、糖尿病の治療と予防を考えるときに、まず今ある心臓、腎臓、網膜、脳、四肢の血管障害の合併症を治療する必要があります。そのためには高血糖を是正しないといけない。それにはいろいろな薬が出ていますし、インスリンも使いやすくなっていますので、これらを有効に使う必要があります。

 その前にやはり早期発見、早期治療が大事です。検診、ドックを十分ご活用ください。

 それに加えて、生活習慣の改善はこれらの予防に非常に大事です。「健康日本21」に具体的に書かれていますのでご参照ください。ご清聴ありがとうございました。

司 会 西川先生、どうもありがとうございました。

質問1 境界型が3年くらい続いています。境界型が何年続くと薬による治療を考慮したほうがいいでしょうか。

西 川 それはコレステロールの状態とか血圧の状態など、他の症状を加味して考えたほうがいいと思います。境界型で血糖だけを下げる目的で経口血糖降下剤を飲むことは現在あまりありません。境界型が何年か続いたから糖尿病の治療をするというものではありません。

質問(続) 食事療法も続けているのですが、もうひとつ芳しくない。そういう場合は先ほどの合併症を防ぐ……薬に頼るのはよくないのですね。

西 川 そうですね。薬に頼るよりは運動療法を考えるほうがいいと思います。

質問2 糖尿病から人工透析になったときにステロイドが使えないので予後がよくないという話を聞いたことがありますが、それはどうでしょうか。

西 川 それはちょっと理解しがたいですね。糖尿病の人にはステロイドを使わないのはわかりますが、人工透析になったからといってステロイドは使いません。人工透析ではなくて、余病があってステロイドを使いたいけれども、使えないという話だと思います。

質問3 糖尿病の検査の場合、HbA1cだけでは不足で、半年か1年に1回糖負荷試験をやったほうがよろしいのでしょうか。私も境界型と言われて長いのですが。

西 川 そのとおりだと思います。スライドで表を示したように、いくつか基準があって、全部が正常になるのが一番よろしいですね。ただ、1日7回も血糖を測るのは大変ですし、HbA1cを定期的に測定するのが簡便でいいと思います。そして時々は1日何回も血糖を測って。例えば食後だけ上がる人に対しては別の薬を使う方法もあります。全体的な流れとしては指標にはHbA1cを使います。個々には血糖を何回か測るのがいいと思います。

質問(続) 1時間値とか1時間半値が私の場合には高いんですね。先生がおっしゃるのには、インシュリンの効きが悪いのではないくて出方に問題がある。ですから2時間値が正常まで下がらないし、正常近くまで下がるのに時間がかかる。そのへんのことは糖負荷試験をしないとわからないんですね。

西 川 先ほどのご質問と関係するかと思いますが、境界型でどの血糖が高いかというのは糖負荷試験しないとわかりませんが、例えば食後だけが高いのであれば、糖の吸収を遅らせる薬があります。だからそういう薬を飲むのもいいと思います。

質問(続) 境界型で薬物療法も必要ですか。食事と運動だけではなくて。

西 川 合併症の程度とか罹病期間とかいろいろなことが関係すると思います。一般的に言えば、合併症も何もなくて、血圧も正常で、高脂血症もなくて、眼も正常であって食後ちょっと上がるような、糖尿病にはならないような状態の境界型の場合には積極的に薬を使うことはありません。

質問(続) 糖尿病になってしまうと不可逆的で元に戻らないということですね。境界型の場合も正常には戻らないのですか。

西 川 境界型は戻ることがあります。ストレスに関連するホルモンが出て、それで血糖が上がることがあります。GTTをしたときに、たまたまそういうストレス状態であれば、一時的に境界型になります。そういうときには日を改めて一月とか二月後にやってみると、今度は正常になります。境界型の場合は再検査をします。

質問(続) Slide No. 41の中の(1)IRI初期反応について説明をお願いします。

西 川 これはブドウ糖負荷試験のときのものです。ブドウ糖を負荷したときあるいはご飯を食べたときに、初期反応の悪いのが糖尿病の特徴です。もう少し前から言いますと、インスリン分泌には1日中出ている基礎分泌と、食事をしたときにポッと出てくる初期反応の2つ種類があります。糖尿病になると基礎分泌は保たれますが、初期反応が落ちるのが特徴です。

 Δ(デルタ)は0分値と30分値の差で、分子にIRI、分母にPGにおいて、血糖の上がりに対してインスリンがどれだけ出るかで初期反応を見ています。(IRI:immunoreactive insulin 免疫反応性インスリン、PG:plasma glucose 血糖)

質問(続) それが 0.4未満だと正常という意味ですか。

西 川  逆です。 0.4未満だと悪く、境界型の中でも糖尿病に移行しやすい人です。そういう人は境界型であっても糖尿病に準じた管理が必要になります。

司 会 それでは西川先生、ありがとうございました。

この講演記録は、ボランティアの方が録音から起こした筆記録のディジタルファイルをもとに作成されたものです。
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