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関西医科大学第2回市民連続公開講座
「乳癌の原因とその対策」
関西医科大学第2病理学教授 螺良 愛郎
平成11年(1999年)11月6日(土)15時00分〜16時00分
関西医科大学南館臨床講堂
主 催:関西医科大学
司会 赤木助教授(整形外科学)

司 会(赤木 繁夫・関西医科大学整形外科学助教授) 井上教授から肝臓の話がありましたが、次は乳癌のお話です。女性の方がたくさんいらっしゃいますのでご興味があるかと思います。講演していただきますのは螺良愛郎先生です。簡単にご経歴をご紹介させていただきますと、昭和50年に関西医大を卒業されました。ですから卒業されて25年、私の5年上の先輩になります。ご卒業後、アメリカの癌研究所でずっと癌の研究をされ、平成5年から病理学の教授として忙しい毎日を送られておられます。

 先生、よろしくお願いいたします。

 螺 良 (関西医科大学第2病理学教授) ( slide No. 1 ) まず、名前を読んでいただけないんですが、つぶらと申します。そしてやっと名前を覚えていただきますと、今度は「お医者さんですか」と聞かれます。「そうです」と答えますと、「内科ですか、外科ですか」と始まるのですが、「病理です」と言いますと、「一体何をやっているのですか」というのが次の質問になります。

 病理学と申しますのは、先ほど井上教授がおっしゃっておられましたが、肝臓の一部を摘んできて、それを顕微鏡下で見て診断する、そのような診断学が病理学だと理解していただければいいのではないかと思います。ですから外来で患者さんを診察することをいたしませんし、また治療もしておりません。一応、病気の診断をしているということになります。診断をするにもいろんな方法があって、とりわけ癌における生検診断、要するに顕微鏡の下で組織を見て診断をするのが最終診断になります。

( slide No. 2 ) 病理のことを書いている小説が1編ございます。アーサー・ヘイリー(Arthur Hailey)が『最後の診断』の中で、苦悩する病理医の姿を書いておりますので、ご興味のある方にはこのような小説が参考になるかと思います。

( slide No. 3 ) さて、我々の教室では腫瘍学、癌のことを主に研究しておりますが、その中でも私は乳癌に興味を持って20年ほど、乳癌とは何だろうかと、診断とともに研究を続けてまいりました。現在の乳癌はどういう状況になっているのかということについて、まず現状をお話ししまして、その現状からその原因は何か、その原因がわかれば何か予防の手だてはないか、ということを皆さんと一緒に考えていきたいと思います。

乳癌の男女比
(男性) 1: 100 (女性)
 さて一般に皆さんは乳癌と言われますと女性特有の疾患だとご理解されると思いますが、世界各国のどの統計を見ましても、女性 100人に対して、男性の乳癌患者が1人、このような割合で発生します。

この比率は非常に意味を持っています。女性が男性より 100倍乳癌になりやすい。男性も、立派かどうかわかりませんが、女性と同じように左右に一対の乳腺を持っていますから、1:1の比率になってもいいわけですが、それが1:100 になっているということは、男性と女性ではどこが違うかということになります。一番大きな違いは男性ホルモンが優位な男性と女性ホルモンが優位な女性というホルモン環境の差にあります。すなわち女性ホルモンというのものが乳癌を作っている、乳癌の原因の一つであるということが、単純な乳癌の男女比から読み取れます。

( slide No. 4 ) さて、今度は世界の乳癌を見て、そこから何が読み取れるでしょうか。これは世界の国別の乳癌を原因とする死亡率ですが、英国(28.4)、アイルランド(27.7)、オランダ(26.4)、アメリカ(22.1)という比較的乳癌が多い国と、日本(5.8) は最下位に位置していて、このような低率国があります。こういうふうに国によって乳癌の罹患率が異なり、必然的に死亡率も異なってきます。 さてこの表から、日本人という遺伝的な背景を持っている我々はひょっとしたら遺伝的に乳癌になりにくいのではないか、あるいはヨーロッパやアメリカの人は遺伝的に乳癌になりやすいのではないかということも、類推できます。

乳癌発生の国内分布(訂正死亡率、人口10万人)
郡部 3.9 市部 5.2 十大都市 6.9  
 今度はアメリカ人でもヨーロッパ人でもない同じ日本人で考えてみましょう。乳癌の発生の国内分布であります。町と田舎というと言葉が悪いかもしれませんが、田舎では人口10万人当たり乳癌の訂正死亡率が 3.9であり、ちょっと大きな町になると 5.2に跳ね上がりまして、政令都市といいますか十大都市では何と 6.9と、群部の倍近くに跳ね上がっています。

ここから何がわかりますか。確かに人種によって乳癌になりやすい民族、なりにくい民族がありそうですが、しかし同じ日本人ですね。町に住んでいる人と田舎に住んでいる人では乳癌の発生率が違うということは、どう思われますか。 恐らく、一つに我々の日々の食べ物に原因がありそうです。町に住んでいれば朝食はトーストを食べてコーヒーを飲んで晩はステーキを食べている−−私はそんなに裕福な生活をしておりませんが、ということも考えられるのに対しまして、田舎というと語弊がありますが、お味噌汁とご飯とお漬物など、昔からの生活を踏襲している。日本古来の生活様式と欧米化した生活様式の違いではないかと考えていいかと思います。 ならば、欧米化している食生活あるいは環境が乳癌の発生に対して悪い影響をしているのではないかと考えられます。

( slide No. 6 ) これは何も意味のないスライドで、強いて言えば乳癌を好発しているオランダの風景です。  ここまでを多少復習しますと、乳癌には男女差があります。(女性)ホルモンがバックグラウンドとして影響しているのではないか。乳癌には遺伝的な要因、つまり民族差がある。それとともに日本の地域別の乳癌発生率を見れば、生活習慣が乳癌の発生に関与しているのではないかということが言えます。

乳癌発生率(移民癌)
日本1:ハワイ日系3:米国5 
 今度はこのような話を日本人の乳癌とアメリカ人の乳癌でもう少し見極めたいと思います。

 日本に住んでいる日本人の乳癌発生率を1とすれば、アメリカに住んでいるアメリカ人には5倍の発生率があります。さて日本人であるけれどもハワイに移住したいわゆる日系人たちの乳癌発生率を調べると、日本に住んでいる日本人とアメリカに住んでいるアメリカ人の中間の値を示しています。

 もし遺伝のみが乳癌の発生に関与しているのであれば、ハワイに移住したところで、発生率は1になるはずです。もし食生活を初めとした環境のみが影響しているのであれば、この値は5になるはずです。これが中間の3を示すということは、恐らく乳癌の発生には遺伝的な関与もあるし、かつ食生活を中心とした環境的な要因も関与していると言えます。

( slide No. 8 ) もう少し詳しく考えてみます。これは年齢を横軸に、乳癌の発生率を縦軸にとったもので、日本は一番下の破線で、それ以外はアメリカとかノルウェーなどの外国であります。いわゆる癌年齢に近づくにしたがって、どの国でも乳癌の発生率はふえていますが、日本の場合はここでがくっと減っています。このときの年齢は50〜55歳で、女性の閉経期と一致します。

乳癌発生割合
 閉経前閉経後
日本64
米国46
 すなわちアメリカ人の乳癌は閉経前乳癌が4に対して、閉経後乳癌が6と多く、日本の場合は閉経前乳癌が6に対して閉経後乳癌は4になっています。

乳癌の10年生存率
 閉経前閉経後
日本6660
米国6134
 発生年齢も日本とアメリカでは違っていましたが、今度は予後がどうか。閉経前乳癌と閉経後乳癌を、日本とアメリカの10年生存率(乳癌と診断されてからあるいは乳癌の手術をされてから10年生きている確率(%) )で見ました。日本の場合、閉経前乳癌であれ閉経後乳癌であれ、大体60%ぐらいの人が10年間生存しています。アメリカの場合でも、閉経前に見つかった乳癌では60%の10年生存率がありますが、閉経後乳癌は特に予後が悪いようです。一般的に、アメリカ人の乳癌は日本人の乳癌よりも予後が悪いと言われていますが、それはこの閉経後乳癌の予後の悪さが原因しています。

( slide No. 11 ) 乳癌を特徴付けるもう一つのものとして女性ホルモンを申し上げました。実は、ホルモンと乳癌の関係を解明されたのが、私の恩師であって一昨年94歳で亡くなったシカゴ大学の C.B. Huggins 先生であります。

( slide No. 12 ) 褐色に見えているのが乳癌細胞の核ですが、そこに受容体 (レセプター) があります。女性ホルモンが来ますと、この褐色に見えている核の受容体と手をつないで、そのホルモンおよびホルモン受容体の結合物がこの癌細胞を増殖させます。Huggins 先生は女性ホルモンがこういう機序によって乳癌細胞を増殖させるということを初めて見いだした方です。ならば、手をつなぐのを邪魔すれば乳癌を治すことができるのではないかということから、ホルモン療法を確立された方でもあります。

( slide No. 13 ) その功績により、1966年にノーベル賞を受賞されました。

乳癌のエストロゲンレセプター陽性率(%)
 閉経前閉経後
日本5759
米国5979
 この日本人の乳癌とアメリカ人の乳癌で、手をつなぐ相手、すなわち女性ホルモンの受容体がどれくらいあるのかということを比較してみますと、先ほど予後が悪い、非常に質(たち)が悪いといっていたアメリカ人の閉経後乳癌は、他が大体60%の陽性率に対して、80%あります。ここでも違いがあります。

 さて、お年寄り−−この場合は男性は少ないので、おばあさんを考えてみましょう。日本人のおばあさんとアメリカ人のおばあさんとではどこが違うか考えてみますと、向こうの方は極めて肥満している方が多いですね。エストロゲン(女性ホルモン)は卵巣から分泌されますが、閉経を過ぎた女性は卵巣からこの女性ホルモンは分泌されません。これは実は脂肪織の中に蓄えられているわけです。太っている方であれば必然的にその蓄えが豊富で、エストロゲンがたくさんあります。その豊富なエストロゲンが、エストロゲン受容体と手をつないで乳癌をひき起こします。ここから言えますのは、年を重ねても決して肥満になっていけない。

( slide No. 15 ) これはフロリダの上空からアメリカを俯瞰したところです。  もう一度、日米の乳癌を復習してみますと、日本人の乳癌の発生率はアメリカ人のほぼ 1/5です。しかしハワイへ移住してアメリカ型の生活をしますと、乳癌の発生率は日本人であるにもかかわらず増加します。現在の日本人の乳癌は中年期の癌、すなわち閉経前乳癌が多い。それに対して、アメリカの乳癌は閉経後乳癌が多い。そしてその閉経後乳癌の予後は極めて悪い。困ったことに日本人の乳癌は経年的に増加傾向にあります。そしてそれは取りも直さずアメリカ型の乳癌に移行しています。それは我々の生活が欧米化していることが一番の原因ではないかと考えられます。

( slide No. 16 ) (女性)ホルモンが原因して乳癌になると申しましたが、中世からの昔から、ある女性の集団に極めて乳癌の多いことが知られておりました。これは女性が乳房を出して、お医者さんに乳腺を触れてもらっている絵です。実は修道女、すなわち神に仕える女性は終生結婚をしないし子供を生まないという女性です。

 こういうことからヒントを得て、世界中で調査が行われました。終生独身で子供を生んでいない女性と、子供がいる女性とを比較しますと、終生独身の女性に乳癌が圧倒的に多く発生しています。ここから申せますことは、妊娠出産というのは一番生理的な現象で、乳癌を予防する一番の手だては子供を作ること、それも若い年齢で作ることです。

( slide No. 17 ) 乳癌はホルモンの作用によって起きていると申しましたが、人間の場合はエストロゲンというホルモンが悪い影響をしています。私どもはマウスとかラットという実験動物を用いて実験をしておりますが、このような動物ではプロラクチンというホルモンが乳癌となるような悪さをしています。

 プロラクチンは簡単に申しますと、催乳ホルモンといってお乳を出すホルモンと理解していただければいいでしょう。

抗精神病薬長期服用者の乳癌
頻度   1.3 %(17/1264)
多発例 2.4 %( 4/17) 
脂質分泌癌1.0 %( 2/21)
  私は、人間も動物の一員であれば、動物で起こることは人間に当てはまるのではないかと思いまして、プロラクチンがヒトの乳癌の発生の原因ではないかという予測のもとに、本学にある12年間の1264例の乳癌手術例を調べてみました。抗精神病薬にはプロラクチンを高める作用があるので、そのような薬物を長年月飲んでいた方では、もしプロラクチンが乳癌の発生の原因ならば、高率で乳癌を引き起こします。そうしますと、安心したことに全乳癌のうちの 1.3%でした。人の場合にはエストロゲンは影響しますが、マウスとかラットと異なって、催乳ホルモン(プロラクチン)は特に影響しないだろうという結論を得ました。

 私どもがこのデータを発表してから、東北大学や宮崎医大で追試が行われて、大体同じような結果になっています。

 しかし、乳癌の多発例が比較的多いということがわかりました。一般的に「多発」とは左側の乳房にできてさらに右側にできたとか、あるいは片方の乳房に2つ以上のしこりがある場合を言いますが、このような多発例が多いのは一つの特徴であります。先ほど申し上げましたようにプロラクチンはミルクを作るホルモンですが、乳癌の細胞を見ますと……

( slide No. 19 ) ……正常の乳房と同様に、このような脂肪を作っている特徴が認められました。ある程度特殊な作用をしているとは思いますが、ヒトの場合はエストロゲンが原因であって、プロラクチンの影響はないと考えられます。

( slide No. 20 ) このようなホルモンの影響の他に、食べ物の影響についてみたグラフがあります。横軸は脂肪の摂取量で、縦軸は乳癌の発生率です。食べ物の中でもとりわけ脂肪の摂取が乳癌と関係していると言われていますが、グラフでは右になるほど脂肪の摂取量が多くなります。脂肪をたくさん摂取しているオランダ、デンマーク、ニュージーランドという国では乳癌の発生率が非常に高い。それに対して日本やその他の脂肪の摂取量の少ない国では乳癌の発生率が小さい。たくさん食べて肥満になると乳癌の発生率が高まりますが、食べ物の中でも脂肪の影響が甚大であるとご理解していただいていいのではないかと思います。ただ、脂肪の中でも善玉の脂肪と悪玉の脂肪がありますから、一概に脂肪が悪いというわけではありません。ただ量にしますと、やはり控えたほうがいいという結果です。

( slide No. 21 ) ここまでのまとめをしますと、乳癌の原因としてとりわけエストロゲンが影響しています。そして、戦後から現在までを考えてみますと、子供の発育がいい。すなわち初潮から閉経までの期間が長くなっているので、エストロゲンに暴露される期間が長い。回数、あるいは頻度が多いのでそれも悪影響を及ぼしているのではないかと思われます。

 最近、ピル(経口避妊薬)が解禁になりましたが、ピルもエストロゲンとプロゲステロンの合剤であります。ご心配になられる方がいると思いますが、現在市場に出回っている経口避妊薬は乳癌には影響しないとご理解していただいていいのではないかと思います。

 栄養について、高カロリーを摂取することはあまり乳癌にとってはよくない。とりわけ高脂肪食は乳癌を促進します。

 このように食べ物で見ますと、乳癌に対して悪い作用をするだけでなく、いい作用をする食べ物もあります。例えば東洋人に乳癌が少ないのは我々が大豆をたくさん食べているからではないかと疫学的に言われています。私どももそれに関して実験をやってみますと、やはり大豆の中に含まれているある種の成分は乳癌細胞の増殖を抑えるという結果を得ています。

( slide No. 22 ) さて、他にどのようなものが乳癌の原因として考えられるのか。一つの病気の名前を挙げておきましょう。乳癌の罹患者数が日本人の場合、40歳ぐらいにピークがあるのに対して、この乳腺症は、30歳代の女性が境界不鮮明な乳房の無痛性のしこりを感じて病院に来られる場合が多い病気です。ごく最近まで、乳腺症は乳癌の前癌病変ではないかと考えられていました。

 先ほど井上先生が肝臓のお話をされましたが、C型肝炎ウィルスに感染すると肝炎になって肝硬変になって肝癌になるという、その肝炎あるいは肝硬変のことを前癌病変と申します。乳癌の場合、この乳腺症は乳癌の発生のピークより8年ほど若いのですが、現在は、乳癌の前癌病変ではないと結論付けられております。

 乳癌が女性ホルモンのエストロゲンと関係していると申し上げましたが、実は乳腺症もエストロゲンのかなり強い影響を受けております。疾患の背景が同じですので、乳腺症になった方はやはり高頻度で乳癌になりやすい。乳腺症から連続的に乳癌になるわけではありませんが、そういう意味で乳癌の危険因子の一つと考えていいのではないかと言われています。

非家族性乳癌66%
家族性乳癌26%
遺伝性乳癌8% 
 私どもの会話の中で、私のおじいちゃんは胃癌でね、おじちゃんも胃癌で、おばあちゃんも……という話をしますが、家族の中である種の疾患が集積していることを、乳癌の場合、「家族性乳癌」と言います。そして、家族の中に乳癌がないけれども、私だけ乳癌になった場合には「非家族性乳癌」と言います。また家族の中に乳癌が一人ならずいるんだけれども、−−もっとゴロゴロいるというと言葉が悪いのですが、たくさんの乳癌患者さんがその家系の中にいる場合は「遺伝性乳癌」と言います。

 家族性乳癌と遺伝性乳癌の定義は現在でもはっきりしていませんが、ある定義によりますと、一親等内に3人以上の乳癌がいる、あるいは2人だけども乳癌の発生が40歳以下である場合を遺伝性乳癌に分類しています。この場合、乳癌を起こす遺伝子(brca1、brca2 など)が遺伝子の中に含まれていて、化学的に同定されています。この8%という数字はアメリカの統計で、日本の正確な統計がないのですが、もう少し低いと思います。そのような遺伝性乳癌があります。

 ここで申し上げられることは、たとえ乳癌を作る遺伝子があろうともなかろうとも、家族内に乳癌患者が出れば、やはり乳癌に対する注意は絶えず持っておかなければならないということでございます。

 しかし、大半はそのような遺伝歴のない非家族性の乳癌であります。

( slide No. 24 ) 先ほどのウィルス性肝炎に限らず、いろんな病気にウィルスが関係しているのではないかと言われています。事実、マウスの乳癌では乳癌を作るウィルス(Mouse mammary tumor virus:MMTV) が存在します。このウィルスが感染することによってマウスに乳癌が起こります。

( slide No. 25 ) そして、このようなウィルスはお母さんのミルクとともに赤ちゃんのマウスに伝わります。この赤ちゃんマウスが大きくなると、また乳癌を起こします。

 人に感染するこのようなウィルスがあれば大変ですが、幸いなことに、このようなウィルスがヒトにはいないだろうということが、私どもの研究の他、世界の研究で判明しております。一時期、1970年代のアメリカでは、ネズミで起こることはヒトでも起こってくるのではないかということで、ある州では赤ちゃんに一切母乳を与えてはならないという法律が5年ほど有効でした。

( slide No. 26 ) これは動物の系統樹ですが、白血病を作るウィルスであるとか肉腫を作るウィルスであるとか乳癌を作るウィルスなど、数多くのウィルスがいろいろな動物に見つかっています。一番上に位置するヒトでは、幸いに、乳癌を作るウィルスは見つかっていません。

( slide No. 27 ) ここでまとめますと、乳癌の原因として、先ほど申し上げましたホルモンあるいは脂肪という食べ物に加えうるに、遺伝的な要因も乳癌の原因になります。乳腺症という病変も、乳癌には移行しませんが、一つの危険信号としてとらえていい病変ではないか。ヒトの場合、ウィルスは乳癌の原因ではない。 一つ言い忘れましたが、放射線は乳癌の原因になります。不幸なことでございますが、日本は被爆国であり、広島、長崎では被爆された方がいらっしゃいます。被爆後、一番最初に起こってきた癌が白血病でした。それに続いて2つの癌、甲状腺癌と乳癌が高率に発生しております。 放射線といいましても、例えばチェルノブイリような事故、−−東海村の事故ではどの程度の後遺症が出るかわかりませんが、そのような事故が起きない限り、病院内でレントゲン検査を受けるときに浴びる線量程度では癌を発生させることはないのでご安心ください。

乳癌高危険群
1.40歳以上の女性
2.30歳以上の未婚の女性
3.初産年齢30歳以上の女性
4.閉経年齢55歳以上の女性
5.標準体重 120%以上の肥満の女性
6.乳癌の既往・家族歴のある女性
 そこで、整理してみたいと思います。乳癌の高危険度はどういう人たちであろうか。まず性別が女性であること。年齢では40歳以上の女性は要注意です。30歳以上の未婚の女性も注意信号です。赤ちゃんを生んだらかなり乳癌が防げると申しましたが、その赤ちゃんを生む年齢も重要で、早いほどいい。初産年齢が30歳以上になりますとあまり利き目がない。それからエストロゲンが悪さをします。性周期が長く続く女性、すなわち閉経年齢が55歳以上の女性も危険信号になっています。それから閉経後乳癌について申しました肥満。標準体重の 120%以上の肥満女性も危険信号であります。乳癌の既往があると、再度別の乳癌が発生する可能性がありますので、一応要注意です。先ほど申しました乳腺症も一応注意信号になります。それから遺伝の面から家族歴のある女性も注意しなければならない。

( slide No. 29 )  さて、これまでの逆のことをすれば、乳癌がある程度予防できるのではないかということが見えてきます。先ほど申し上げましたように、未婚女性に乳癌が多いのであれば、−−最近は働く高学歴の女性がふえて、やはり晩婚になりがちです。しかし、なるだけ生理的な早い時期に赤ちゃんを作るというのが乳癌の一番の予防になります。  来世紀は疾患の治療よりも予防しなければならない、予防の世紀といわれております。この乳癌が発生する前に予防することが必要ではないかと思います。

( slide No. 30 )  我々は妊娠によって乳癌を予防できるということを、本学で実験的に証明しております。左のグラフはラットに発癌剤(MNU)を打ちまして、妊娠させた群(赤)と妊娠させない群(黄)とで乳癌が発生したかどうかを調べた結果です。妊娠させない群では80%に乳癌が発生しますが、妊娠を経験させたラットでは20%に乳癌が抑えられます。 右の実験は、今度は妊娠させてさらに授乳をさせたラット群(赤)です。緑は妊娠はさせたけれども授乳させなかった群です。この群の乳癌の発生率は、やはり黄色の処女マウス群より落ちています。この3つから言えますことは、妊娠して赤ちゃんに授乳するということは極めていい乳癌の予防法であります。

( slide No. 31 )  先ほど、ある種の食べ物、その例として脂肪は乳癌によくないですよということを申しました。しかしそのときに、脂肪にも善玉の脂肪と悪玉の脂肪があるということも申し上げました。  簡単に申しますと、悪玉の脂肪は陸に住んでいる動物の脂肪であって、善玉の脂肪は海に住んでいる動物の脂肪であります。すなわち、牛肉あるいは豚肉に含まれている脂肪(脂質)は乳癌に対して極めて悪い影響を及ぼします。それに対して同じ脂肪と申しましても、EPAやDHAという健康食品をお聞きになったことがあると思いますが、海の中の脂肪、魚油というのでしょうか、そのような脂肪は乳癌に対してかえって抑制するように働きます。  これも私どもの仕事の結果です。ネズミに腫瘍を植えて、その腫瘍の大きさを見ているわけですが、上になるほど腫瘍の容量(volume)がふえたことを意味しています。右肩上がりの曲線は癌が大きくなっていると考えてください。本来ネズミが食べている普通の食べ物 (standard diet)を与えると癌の増殖はこの程度ですが、陸の油(牛肉とか豚肉に含まれている脂質、LA)を与えると急峻な腫瘍の増殖を認めます。それに対して、海の油(EPAまたはPA)を餌にまぶして与えると、増殖が普通の食べ物よりも抑えられるという結果が出ております。  この結果から、食べ物を選ぶことによって癌を予防できます。このような一次予防、すなわち癌を発生さないための知識を持つことが必要ではないかと思います。

( slide No. 32 )  アメリカでは乳癌が多いと申しましたが、大体女性10人のうち1人は生涯を通じて乳癌に罹患します。現在の日本では50人に1人と言われております。もっとも、アメリカ人で10人のうちの1人が乳癌で死ぬというわけではありません。早く見つけて治療をされるので死亡するわけありませんが、10人に1人が罹患するというのは驚くべき数字かと思います。  ですから、アメリカでは「 Take your life in your own hands 」(自分の人生は自分の手でつかみとれ)と、乳癌に対するこのようなマスコミを使った宣伝がテレビ、雑誌で氾濫しております。

( slide No. 33 )  日本にも「乳癌は自分で見つけられる」、すなわち自己検診がまずもって必要ではないかと思います。と申しますのは、幸いにして乳房は胃とか肝臓のように体の奥に存在する臓器ではありません。体の表面に存在しますから、しこりを自分でまず見つけることができます。

( slide No. 34 )  しかし、日頃から節制をして早期発見に努めていても、やはり不幸にして癌ができる場合があります。その場合は迷わず、それも早期に外科的に切除するというのがその次であります。  私は外科医ではありませんので、手術をやったことのない素人でございますが、従来はハルステッド(Halsted) の手術(広範な乳房切除術)と申しまして、乳房全部と腋窩(腋の下)のリンパ節の切除、大胸筋も剥がすという広範な切除手術が行われておりましたが、現在では縮小手術と申しまして、腫瘍の一部をとるような方法にだんだん改良されております。もっとも、自分の体にメスを入れられるのは私でもしり込みします。しかし、しこりを触知すれば、迷わず早く専門のお医者さんに診てもらってください。

( slide No. 35 )  多少余談になりますが、乳癌の手術といいますと、忘れてはならない日本人がいます。有吉佐和子さんの小説『華岡青洲の妻』で有名な華岡青洲ですが、実は華岡青洲は紀州の地で麻酔薬を調合して、世界で初めて全身麻酔を行いました。その過程で奥さんの目が見えなくなったということが起こりながらも、全身麻酔を完成させます。その彼が一番最初に手掛けた手術は乳癌の手術でした。

( slide No. 36 )  現在、日本で乳癌を研究する会、日本乳癌学会(JBCS、Japanese Breast Cancer Society)があります。この学会のシンボルマークは華岡青洲が調合したチョウセンアサガオに由来しています。

( slide No. 37 )  ですから、癌対策はまず予防、そして早期発見、早期切除になります。私たちがなぜ癌を怖がっているのか、怖いと認識しているのかと申しますと、実は癌がその局所にとどまらず転移して、体のいろいろなところで二次性の腫瘍を作るからであります。乳癌の場合も全身のどこにでも転移します。骨に転移することもあります。こうなると全身病と言わざるを得ません。ならば、諦めるのかということですが。

( slide No. 38 )  私どもも日々食物を食べて生きていますが、癌細胞も甚だ貪欲な細胞で、非常に栄養を欲しがります。逆に言いますと、栄養を絶てば癌細胞は死んでしまいます。癌細胞は血管を介して栄養物を摂取し、そしてまたこの血管をたどって全身に転移していきます。 ならば、このような血管の増殖を抑えて癌細胞を兵糧攻めにすれば癌を治すことができるのではないかという考えが、10年ほど前から出ております。

( slide No. 39 )  まだ研究段階ですが、私どもは血管増殖阻害剤(血管の増殖を抑えて、癌を兵糧攻めにする可能性のある物質)を使って、果して癌が抑えられるかどうかを実験してみました。縦軸が腫瘍の増殖の程度を表す容量(volume)であり、横軸が経時的にみた時間軸であります。何もせずにただ腫瘍を植えただけ(control) ではこのスピードで腫瘍が大きくなりますが、兵糧攻めにする血管増殖阻害剤を投与しますと、癌の増殖が抑えられることがわかりました。

control??????????
JYG-A lung3/52/51/5
JYG-B lung1/50/50/5
KPL-1 limph node4/52/50/5
 簡単に結果から申し上げますと、何もせずに放っておけば5匹のネズミのうち4匹に癌の転移が見られましたが、血管増殖阻害剤を与えたネズミでは0匹、全く転移が起きませんでした。

 このように、従来行われている非常に副作用の強い抗癌剤に代わりうる治療法が最近出てきております。不幸にして癌が転移した場合につきましても、延命しうる可能性は十分あります。

( slide No. 41 )  日本で日本の患者さんを診るというのが我々日本人の務めかもしれませんが、私のモットーは、その病気の本質を見るためには世界の状況をまず把握しなくてはならないと考えます。例えば、お話ししました世界の乳癌の地理分布であります。

 我々人間は動物界の頂点で威張っていても、動物の一員に過ぎないわけです。比較病理学ないし比較動物学と申しますか、もっと広くいろいろな動物で乳癌がどうなっているだろうかということを見極めますと、ヒトの乳癌についてもっと見えてくるのではないかと思います。

 さて乳癌であります。今、地球上に動物と言いましても何種類の動物がいるのか、数えきれないくらいの種族があると思います。その中で乳癌を起こす動物はヒト、マウス、ラット、イヌ、ネコの5種族に限られています。この5種族の中で共通項がおわかりでしょうか。……(哺乳類です)……乳腺は哺乳類しかありませんが。

 これは極めて重要なことです。皆さんはお家で犬を飼っていらっしゃいますか、猫を飼っていらっしゃいますか。「猫かわいがり」という例えがあるように、ペットがかわいくてしようがない。自分が粗食であってもペットにはおいしいものを与える、そういう方も多いのではないでしょうか。

乳癌になるイヌやネコは主にペットですが、人間が作った餌を食べています。マウス、ラットという動物も大学の実験動物施設で実験のために飼っている動物で、非常に繁殖よく育てなければなりませんので、非常に高栄養の餌を与えています。

 申し上げたいのは、ヒト、マウス、ラット、イヌ、ネコの5種族はすべて人間の作った食餌を食べております。ひいては乳癌もヒトが作った疾患と考えられます。ですから、何がよくて何が悪いか。例えば先ほど申し上げました陸の油が悪いならば、それを極力食べない。逆に緑黄色野菜は乳癌に限らず癌になりにくいと言われております。またビタミン類もいいと言われております。そのような体にいいものを摂取する、これがまずもって乳癌の治療以前の予防になくてはならないことだと思います。

 来世紀は治療の時代ではなくて、まず皆さんが正確な知識を持って病気にならないというのが一番大切かと思います。そして幸せな人生、健やかな一生を送っていただきたいと思います。

( slide No. 42 )  もう一度、私の恩師の写真を出しております。この恩師は私に……

( slide No. 43 )  ……「発見こそ我々の仕事である (Discovery is our business)」という名言をおっしゃっています。私は一番最初に申し上げましたように、大学で病理学という学問を専攻していますから、病院の中では皆さんに直接接しておりません。しかし、大学には病理学のみならず、解剖学、生理学、薬理学、微生物学などの基礎学問の分野の者が、何か新しい知見を見つけようとして日々働いています。このような縁の下の力持ちのような医者の端くれもいるということをご記憶いただければ幸いでございます。どうもありがとうございました。

司 会 どうも貴重なお話をありがとうございました。

 質問1 私は乳癌4期の終わりで、2cmの大きさです。筋肉も乳房も腋の下のリンパ腺も取りました。これで安心かと思っていたところ、ことしの検査の結果で骨に転移しているということがわかりました。今はこの治療も行っていますが、骨の転移だけで終わるのか、それとも肺などの他の臓器に転移する恐れがあるのでしょうか。

田中先生のもとで治療を行っています。

螺 良  個々の症例についてどうだこうだと論ずるのは難しいですね。ですが、癌全般あるいは病気全般について言えることは、病気と共生する、共に生きる姿勢です。たとえ骨に転移しても、他の臓器にふえても、それが小さな状態で癌とともに生きていれば何の心配もいりません。

 精神論になりますので、きょうはお話ししませんでしたが、まず意欲を持つという単純なことになります。前向きに考えるだけで我々の免疫力は賦活されます。免疫力が高まれば、癌の進展を抑えることができます。これを我々のような実験屋が実験で証明するのは非常に難しいのですが、一般的にそういうことが言われています。半世紀前なら、これで終わりだと言われていた時代が確かにございました。しかし、今は決して違います。癌とともに……

 質問1続 共存して生きる?

螺 良  ……そうです。

 もう一つ、最近、「天寿癌」という言葉が使われています。乳癌ではあまりないのですが、男性の前立腺癌にそのような例があります。お年寄りの方で前立腺癌を持っていても、小さいままで本人も気づかない状態で−−これを「潜伏癌」と称しておりますが、亡くなることがあります。解剖をさせていただきますと、癌があるじゃないかということが、時としてあります。その人は癌と共存し、気づかないままに生涯を終えております。

 現在から来世紀の恐らく2010年あるいは2020年あたりまで、癌を治療するために我々がやる方法は、先ほど申しました血管増殖抑制剤を初めとした副作用の少ないマイルドな治療薬で、いかに癌の増殖を抑えるかということになります。たとえ癌があっても癌とともに生きるということ、癌とともに天寿を全うしていただくという方向になってきます。我々人間には 110歳という限界寿命があります。もちろん金さん銀さんという例外もありますが、大体平均 110歳、いくら頑張っても 110歳で寿命はついえます。ならば 110歳までどうぞ。

質問2 エストロゲンの影響が大きいとお聞きしましたが、更年期障害のホルモン補充療法にエストロゲンが使われています。それは癌になる心配はないのでしょうか。

 螺 良 女性ホルモンの話で簡略化する意味できょうはエストロゲンと催乳ホルモン(プロラクチン)の話に限りましたが、更年期障害に使う薬剤には、ピルも同様ですが、エストロゲンとプロゲステロンの2つを複合した薬を使います。このへんが女性の体というかホルモンの微妙さでしょうか。性周期を見ますと、エストロゲンとプロゲステロンの2つのホルモンは相互に値が高くなったり低くなったり交錯しながら動いています。ホルモン補充療法ではエストロゲンの他にプロゲステロンも使いますので、エストロゲン単剤の場合は量によれば危険因子になる場合もありますが、現在病院で処方されている薬であればまず問題ありません。

 質問3 海の動物の脂肪が陸の動物の脂肪よりもいいと先ほど教えていただきましたが、植物性の脂肪はいかがでしょうか。

 螺 良 植物とおっしゃいましたが、先ほども申しましたように緑色の植物は概して癌に対して抑制効果があります。乳癌にとりましても、例えば例に挙げました大豆あるいはお味噌、納豆、豆腐のような大豆製品にはゲニステイン(genistein)という物質が含まれております。そういう物質には乳癌(の発生と増殖)を抑制する作用があります。野菜や果物には植物性エストロゲンが含まれております。

 先ほど、エストロゲンが核の受容体と手をつないで乳癌を増殖させる作用機序を申しましたが、植物性エストロゲンは非常に弱いエストロゲン作用を有しているのに、なぜ乳癌を抑制するか。そういうものを食べますと、植物性エストロゲンは体内のエストロゲンの邪魔をして、本来手をつなぐべき受容体と先に結合して、非常に重篤な作用を示すエストロゲンの作用をシャットアウトするという機序で、乳癌に対してよいという話がございます。

 質問4 統計的に出産後に離婚してそのままずっと独身でいる人はやはり乳癌にかかりやすいのですか。先ほどの話では独身の人はかかりやすいということでしたが。

 螺 良 独身と申しましても出産歴があるかないかということです。ですから一度でも赤ちゃんを出産された方は終生乳癌の発生に対して抑制効果があります。その出産も年齢が若ければ若いほどいいようです。30歳を過ぎますとその抑制作用はなくなるようです。

司 会 女性の体は非常に不思議なものですね。

 質問5 レントゲンを浴びると癌になりやすいという話を聞きましたが、大丈夫でしょうか。

 螺 良 話の中でしゃべりましたが、レントゲン線は癌を起こします、乳癌も起こします。原爆に被爆した人をずっと見ていきますと、乳癌の発生が被爆していない人と比べて多いという結果からですが、ただ病院などで使っている医用レントゲンの線量は非常に微弱で、癌を起こす閾値以下ですから、何の心配もありません。

 質問6  腋が痛くて受診すると乳腺症の心配があると言われました。エコーを半年に1回か1年に1回か、その頻度はどのように受けたらいいでしょうか。

 螺 良 私は臨床医ではないので、患者さんに対する正確なお答えはあまりできません。俗な言葉で申しますと、一番信頼のおける先生に十分説明していただくということしか申し上げられません。

 質問6続 先生によって、半年に1回という先生と1年に1回という先生がいらっしゃって、わからなくなっています。

 螺 良 病気は医者に治してもらうのではなくて、自分で治すものです。医者はあくまで病気を治す患者さんを後押しするだけですので、もし1年に1度で不安であれば、短い期間で納得されるだけいらっしゃればいいかと思います。

 質問6続 腋が痛いというのは乳腺症に限ったことですか。

 螺 良 それはいろいろな原因で起こります。それだけでは決してございません。

 司 会  時間になりました。どうもありがとうございました。

この講演記録は、ボランティアの方々が録音から起こした筆記録のディジタルファイルをもとに作成されたものです。
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