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関西医科大学第4回市民連続公開講座
「動脈硬化を防ぐにはどうする?」後半とQ and A
高橋 伯夫(関西医科大学臨床検査医学教授)
平成13年(2001年)11月17日(土)
関西医科大学南館臨床講堂
司会 西川 光重教授(内科学第二)
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( slide No. 50 )  最後に高血圧の話題に入ります。

( slide No. 51 )  最近、高血圧の診断基準がより厳しくなりました。これも evidence based medicine、いろいろな治験に基づいて改定されています。正常血圧は 130mmHg、85mmHg未満になりました。一番長生きするのは 120mmHg、80mmHg未満と、非常に低い値です。たまには 100mmHgぐらいに下げたほうがいい。薬を飲んで治療する場合にもできれば120mmHg 、80mmHgまで下げたほうがいいのではないか。

 ただ、普通65歳で区切ることが多いのですが、65歳以上のお年寄りの場合、同じように下げたほうがいいという考え方と、少し高目で維持しておいたほうがいいという考え方があって、日本では少し議論になっています。昔は後者でしたが、そういう方が脳血栓などを起こすので、やはり下げるべきだという考え方がだんだんふえてきています。議論を今、重ねているところです。高血圧はWHOが以前に提唱した90mmHg、140mmHg 以上の基準がありますが、何れにしろ低いほうがいい。

( slide No. 52 ) 血圧は、心臓から血液がどれだけ出ていくかという心拍出量と、血液がどれだけ出やすいかという末梢血管抵抗の2つの指標で決まります。特に塩辛いものをたくさん摂取したり心臓が激しく動いて血液を出しやすい、ストレスに対して非常に反応しやすい方では上の血圧が非常に上がってきます。下の血圧は血管の抵抗ですから、血管が縮まることがベースにあるとどうしても最低血圧が上がってきます。大人の高血圧の多くは拡張期高血圧で、下の血圧が高い。特に何らかの原因があって高血圧となっている二次性高血圧の場合は特に下の血圧が上がりやすくなっています。

 それぞれに対してさまざまな治療薬があるので、患者さんの症状の特徴をよくみた上で薬を選択することが大事です。

( slide No. 53 )  血圧の変動について。最近では血圧を家庭でご自分で測っておられる方がいます。朝方と夕方にちょっとしたピークがあります。特に朝方に血圧が高くなりやすく(モーニング・サージ)、睡眠中はまさに低血圧のレベルです。私自身が24時間の血圧を測ってみると、夜中は上の血圧でも70mmHgぐらいしか上がりません。そこまで血圧は変動します。

 冬高くて夏低いという季節変動もあります。また7割ぐらいの人が白衣高血圧だと言われています。診察するときにだいたい20mmHgぐらい高くなってしまいます。

( slide No. 54 )  これだけ変動すると、何を信用したらいいのかということになります。今までに出ている治験の結果、エビデンスではあくまで診察のときの血圧を基準にしていますので、診察時の血圧が大事になります。家庭血圧計では残念ながら参考値ですが、現在、家庭血圧計を使った非常に大々的な研究がなされていて、その結果によっては家庭血圧がもっと参考になるかもしれない。その結果が出るのはもう少し先のことになります。

 白衣高血圧、先生の前で高くなる高血圧なら放っておいてもいいのかというと、そういった人でも腎臓や心臓が悪くなる率が高くなると言われていますので、何かしないといけない。反応性が高まっているから血圧が上がるので、何らかの対処をしないといけないと言われています。

 家庭血圧計も最近非常によくなったので、実際に参考にされていいと思います。ただ指で測る血圧計ではお年寄りの場合は低めに、若い方は少し高めに出ますので、一度腕で測った血圧と比較しながら指の血圧計を使ったほうがいいでしょう。ただ血圧が高くなったり低くなったりその変動を見るには、簡単に指で測れますから非常に便利です。そういう使い方をすると家庭血圧計も重宝です。

( slide No. 55 )  血圧を正しく測定するには、現在の血圧よりも20mmHgだけ高い数値まで上げて、それから徐々に下げてきます。例えば 140mmHgの場合、220mmHg ぐらいまで上げてから下げてくると、どうしても高目に出てきます。最近の家庭にある自動血圧計は、腕を絞めていくときにどれくらいか予測をして、それから20mmHgだけ上で止まってそこから測ってきますので、あまり考えなくてもちゃんと測れます。

( slide No. 56 )  食塩を摂りすぎるとだめですよという話です。食塩の摂取量を縦軸に高血圧の発症頻度を横軸にとると、ごらんのように直線関係があります。

( slide No. 57 )  実際に1日6gの減塩食で塩分を制限すると、これはほとんど塩味を感じないぐらいの制限ですが、ごらんのように降圧薬を飲むのと同じぐらいの効果があります。横軸に年齢構成がありますが、特にお年寄りの場合には塩分を制限すると降圧効果が大きい。これは腎臓の働きが高齢になると落ちてくるので塩分を体内にためやすくなっているからです。

 ただ何しろ現代は食塩中毒の時代ですから、中毒の人の食塩を一気に制限するといろんな問題が起こってきますので、徐々に塩分を下げる必要があります。特に汗を非常にかいたとき、外で運動をしたときには、塩分はむしろ少し補給したほうがいいかもしれない。その場合にはそれを含むようなスポーツドリンクを飲むのもいいでしょう。だけど食塩中毒を治療するという意味では、平素から塩分をどんどん制限したほうがいい。

( slide No. 58 )  高血圧の治療法は糖尿病とほとんど変わりません。運動をする、喫煙をしない、脂肪を減らす、カリウムやマグネシウムをたくさん摂るようにします。

( slide No. 59 )  血圧の高い人は合併症を起こさないように予防しないといけない。最後にそのことを少しだけ触れておきます。

 血圧を急に下げないということもトピックスになっています。例えば血圧が高くて頭が痛い、これはえらいことになったといってドクターのところに行って、すぐに血圧を下げる薬をもらって一気に下げようとします。しかし、血圧を急に下げるとしばしば問題が起こることも指摘されています。血圧を急に下げる必要は本当のところはありません。上がっても 250mmHgとか 300mmHgに上がることはありません。高血圧性脳症といってぼーっとするほどの高血圧では注射薬で血圧を急激に下げないといけませんが、そうでない限り普通の薬を飲んだり精神安定剤を飲んでしばらく様子を見ることで十分対応できます。

( slide No. 60 )  それは急に血圧を下げることによって心臓を刺激することになるからです。

( slide No. 61 )  詳しい話は省きますが、実際に脈拍数を横軸にとると、脈拍数の多い人は冠動脈疾患や脳血管障害を非常に起こしやすい。だから脈拍数をふやさない、急に血圧を下げないことが非常に大事になってきます。

( slide No. 62 ) また、血圧の高い人は脆くなった血管の中を血液が流れているので、血液が固まりやすくなっています。

( slide No. 63 )  そこで、アスピリンのような抗血小板薬を併用すると、血液が固まりにくくなって心臓病の発症が減ってくると言われています。だからある程度以上の動脈硬化がある方はこういう治療をしたほうがいいでしょう。

( slide No. 64 )  モーニング・サージといって、朝方に脳血管障害や心臓病が非常に起こりやすいので、朝に注意しておかないといけない。家庭血圧計をお持ちの方は朝起きて一番に血圧を測ると、これが非常に参考になります。これを押さえておかないと大変です。

( slide No. 65 )  これには血圧を高める交感神経の活性が朝高くなって血圧を上げ、血液が固まりやすくなるメカニズムが働いて、心筋梗塞や突然死を起こしてまいます。特に寒い朝は非常に困ります。寒い朝にどうしても出かけないといけないときはできるだけ厚着をして、ぶるぶるっと震えることがないようにして外出します。

( slide No. 66 )  高齢になるとどうしても関節が痛むので痛み止めを飲みますが、薬によっては昇圧作用があってせっかく下げていた血圧を戻してしまうことがあります。メカニズムがここにありますが、血管を開くようなホルモンが減ってしまうので、注意が必要です。

 それから胃の悪い人が飲んでいる甘草という漢方薬があります。これを含む薬剤を飲んでいると血圧がどうして上がりやすくなるで、これも問題になります。ですから血圧の高い人で主治医を持っている方は、私はこのようなものを飲んでいますということを予め相談してください。

( slide No. 67 )  なかなか血圧が下がらないときには太りすぎや酒を飲みすぎたなど何か原因があります。お酒を飲んでいるときは血圧は低いのですが、お酒が切れる二日酔いでは血圧は普段よりも高くなっているので、お酒は血圧を高めると言われています。その他、塩辛いものをたくさん食べる、運動不足になる、カリウムが不足するなど、このような原因から血圧がコントロールできない。また逆に、このようなことを思い出してコントロールしないといけない。

( slide No. 68 )  最後にストレスです。

( slide No. 69 ) ストレスが動脈硬化につながるメカニズムにはいろいろありますが、非常に几帳面なタイプAの方はタイプBの方よりもストレスを受けやすい。特にホワイトカラー、サラリーマンをやっている方の場合、心臓病に非常になりやすい。ブルーカラー、額に汗をして働いている方の場合は実際、あまり差がありません。

 ただ我々は体を動かすとストレスを避けることにもつながっています。ぜひ体をよく動かしていただきたいと思います。

( slide No. 70 )  生活習慣病はまさに食習慣と運動不足が原因となって、最終的に動脈硬化症になって臓器障害を起こします。そうしますと社会的な財産、つまり社会的な働き手が障害によって社会に損失を与えるようになり、そのような方がお金を使うようになります。それは非常に問題です。また努力すれば治りますし、優れた薬剤もありますので、きちんとした医療を受けて治療されると将来は決して暗いものではありません。

 以上です。どうも皆さん、最後までご清聴ありがとうございました。

司 会 高橋先生、どうもありがとうございました。動脈硬化を防ぐには原始に戻れ。ただそれにはそれなりの知識と知恵が要るということでした。

質問1 動脈硬化という言葉が何度も出てきましたが、静脈硬化という言葉はありますか。

高 橋 静脈には圧があまり加わりませんし、静脈が硬化することはそれほどありません。もともと静脈の血管壁は非常に薄くて十分太いので、静脈硬化というのは聞いたことがありません。

質問2 善玉は高ければ高いほどいいのですか。

高 橋 結論から申しますと、高いからよいとは必ずしも限りません。高くなると横ばいになってしまいます。

質問者 70mg/dl ぐらいあります。

高 橋 70mg/dl なら最高です。ただ100mg/dlを超えてくるとよくもないし悪くもないというのが現在の考え方です。一時100mg/dlを超えるとむしろ悪いのではないかと言われていましたが、最近の研究では100mg/dlに超えると横ばいになるだけで決して悪いことではない。HDLにはHDL2 とHDL3 があって、HDL3 がふえるほうが好ましいのですが、100mg/dlを超える場合には実はHDL2 がふえています。70mg/dl ではHDL3 がふえていて非常にいいことです。

質問3 私は魚が好きです。魚は不飽和脂肪酸が多くコレステロールを下げることはわかりましたが、ある本で不飽和脂肪酸を摂りすぎると活性酸素が体内にたまるのでよくないということを書いていました。どうでしょうか。

高 橋 確かに諸刃の刃のところがないこともないのですが、基本的にはむしろ動脈硬化を予防する方向に働くと考えられるので結構です。ご心配なく、どんどん魚を食べてください。

質問者 いくら食べてもいいのですか。

高 橋 要するにバランスです。摂りすぎて困るほど食べることは日常生活ではまずあり得ません。現在、魚の油を濃縮した薬が高脂血症の治療薬、具体的に言えば足に血液が流れない閉塞性動脈硬化症の治療薬として使われています。この薬を使って毎日魚を何匹か食べる分ぐらいを補給しながら高脂血症を予防しますので、むしろいい効果があります。心配されることもないと思います。

質問4 魚の質問が出ましたが、生の魚はどうでしょうか。

高 橋 きょう申し上げましたように生の食材にはカリウムが非常にたくさん含まれています。野菜では例えばホウレンソウを1分ぐらい茹でると7〜8割のカリウムが失われると言われています。ですから生で食べるとカリウムの補給にもなります。

質問者 生の肉はどうですか。

高 橋 生の肉も実はいいのですが、肉にはかなり飽和脂肪酸が入っていますので、肉と魚を比べるとやはり魚がいいことは間違いないと思います。

質問者 脂身が多いのはだめですね。

高 橋 そうですね。

質問者 コーヒーフレッシュなどもだめですか。

高 橋 すべて偏らないことが大事です。栄養士ではないので詳しくは申し上げられませんが、お肉からタンパク質を摂る必要もあります。動物性タンパク質には必須アミノ酸がたくさん入っていて、これも体にとって必要なものですから、ある程度摂取したほうがいい。

質問5 食事は糖尿病と同じように4:5:4となるように、夜食べ過ぎるよくないんですね。

高 橋 夜食べると中性脂肪値を押し上げてしまうので、食べすぎるとよくない。その他、夜、特に寝る前に食べると胃酸の分泌が非常にふえるので、胃腸を傷める可能性があります。ですから胃の悪い方では薬を寝る前に服用するのが一番いい方法で、予防効果が一番強くなります。夜は遅く食べないということと量をたくさん摂らないということが大事です。

質問者 夜9時が夕食時間となる場合、6時と9時に分けたほうがいいのでしょうか。仕事の都合でどうしても9時になります。

高 橋 量を減らすか、そういう方法もいいかもしれません。

司 会 他にもあるかと思いますが、時間ですので、これで終わらせていただきます。高橋先生どうもありがとうございました。

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この講演記録は、ボランティアの方が録音から起こした筆記録のディジタルファイルをもとに作成されたものです。
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