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関西医科大学創設70周年記念・市民連続公開講座
「がんの予防と治療」(前立腺癌)
関西医科大学泌尿器科学教授 松田公志
1998年10月31日(土)関西医科大学南館臨床講堂
はじめに 疫学 診断市民検診治療

松田 私は泌尿器科を担当しております松田と申します。きょうはよろしくお願いします。いま高田先生から食べ物でいかに予防するかというお話がありましたが、私は食べ物とか脂肪というのは専門ではございませんので、大変いい勉強をさせていただいて、きょうから食べるものを変えよ うと考えています。しかし、こういうこと言ってはいけないかもしれませんが、ここにおられる多くの方は、もしかしたらもう遅いかもしれません。ですから子供さん方のために是非健康な食生活にすることが大事だと思います。

( slide No. 1 ) 私は泌尿器科ですので、現在最もふえている前立腺癌についてお話をしたいと思います。きょうは女性の方のほうが少し多いように思いますが、女性の方は前立腺をお持ちでは ございませんのでご自身のためにはお役に立ちませんが、ご主人やお父さんのために是非聞いて帰っていただきたいと思います。

 前立腺というものをご存じの方、ちょっと手を挙げていただけますか? ありがとうございました。泌尿器科医といたしましては大変嬉しくなるような、皆さん大変よく知っておられる。泌尿器科というと何か変な科ではないかと思われているのではないかと、実は私どもはコンプレックスを持っています。胸部外科といいますと実にかっこいい、医者らしい。泌尿器科というと一体何や。僕らはコンプレックスを持っていて、学生にも「なんで私が泌尿器科に行かんとならないんですか」と、あるいは私自身が泌尿器科医になるときに親から「お前、医者になって、なんで泌尿器科に行かんといかんのや」と言われました。今から思えば変な気持ちがしますけれども。前立腺のことを皆さん大変よく知っておられるということは、泌尿器科もついに市民権を得たと大変嬉しく思います。ありがとうございます。

 きょうは早期発見、いかに早く見つけるかというお話をしたいと思います。癌はやはり早く見つけるということを少し大事に考えていただく必要があるのではないかと思います。

( slide No. 2 ) 皆さんは前立腺をよく知っておられますが、一体どこにあるかというと、正しく知っておられる方はもしかすると少ないかもしれません。

 スライドには男性の体を縦に切って横から見た図を出しております。上が頭で左が前になります。膀胱にたまった尿が尿道を通って陰茎の先から出てきます。その膀胱と尿道のつなぎめのところにあるのが前立腺です。尿を漏れないようにしている括約筋はその下にあります。この前立腺の病気、特に癌のお話をしたいと思います。

( slide No. 3 ) もう少しきれいな前立腺の図です。この前立腺の中に射精管(精子の通り道)が通っていて 尿道に精子が出てきます。精嚢は精液を作るところで、射精管と合流します。

 前立腺は精液の一部を作っています。精液は全部睾丸で作られるのではなくて、精嚢とか前立腺で作った液に睾丸で作った精子が混じって尿道に出てくる、それが精液になります。ですから動物が繁殖して子供を生むために、前立腺は大切な役割をしています。

( slide No. 4 ) この前立腺が腫れます。年をとると多くの男性は前立腺が腫れるとお考えいただいていいと思います。もちろん全く腫れない方もおりますが、むしろ腫れる方のほうが多い。癌になる方も最近は大変多くなっていますが、多くの方は、良性の前立腺肥大症という大変頻度の高い病気で前立腺がています。大体50歳ぐらいで少し症状が出てくる 方が多いと思います。

( slide No. 5 ) 前立腺が腫れるとどういう症状が出てくるか。最初に、夜中にトイレで目が覚めるという症状が出てきます。今までは夜11時頃寝たら朝6時あるいは7時までぐっすり寝て一度も起きないという人が、50歳ぐらいになると、どうも4時ぐらいに目が覚めるということがおこります。

 尿の切れが悪いという症状も出ます。若いときにはざーっと出てぴたっと止まってぶるんとしたら終わるという感じだったのですが、50歳ぐらいになると、どうも切れが悪い。どうも下着が少し汚れて、奥様に怒られるということが起こってきます。

 もう少し症状が強くなると、なかなか出ない、ちょっとぐっとしないと出ない。ひどくなると1分ぐらいじっとしていないと出ないようになります。

 そして勢いがなくなる。子供のときに飛ばしっこをしたようなことは本当に夢物語になります。「それはしょうがない」「年をとったらおしっこは出にくくなるんだ」と思っておられる方が多いのですが、決してそうではありません。年をとっても病気でない人、前立腺が正常の人は勢いよく出ます。少ししか出ないのは前立腺に病気があるからだとお考えいただきたい。「これはしょうがない」のではないのです。

 本当にひどくなると全く出なくなります。これは大変苦しい。トイレに行っても出なくなるのは大変苦しいです。そうなりますと皆さんは病院に来られます。

長年かけてだんだんと悪くなると、全部出てしまわないで残ってしまうんですね。正常な場合は 200ccたまったら全部出て残らないのですが、50ccあるいは 100cc残るようになります。それが長年になると、 200ccのうち 190cc残ってきます。そうなると膀胱がだんだんと大きくなって、膀胱に1リットル以上尿がたまってくる。それでも少し出るから、こんなものかなと思ってしまいます。「尿がよく出ないのではないですか」と尋ねると「よく出ます、10分ごとに10ccぐらい……」そういうのはよく出るとは言わない。そういう人の場合は膀胱がぱんぱんになって腎臓も腫れてきて、腎不全で透析をしないといけないようになる場合もあります。

 今は医療の知識が広がってこういう患者さんも減ってきていますが、実際にそういう方もまだおられます。本当に尿が出なくなると、腎臓がやられて命にかかわることになります。肥大症であれ癌であれ、前立腺が腫れればこういう症状があらわれま す。

( slide No. 6 ) 今回は癌の話ですが、癌は一体どこにできるか。多くの癌は前立腺の非常に端のほうにできます。ですから癌ができても最初は尿道が圧迫されませんから排尿の症状はあまり出ません。癌の初期では尿は今までどおり普通に出ます。ですから前立腺癌の場合は症状が出にくいという大変厄介なことになります。

 癌と肥大症が前立腺の一番大事な病気なんですが、大変多くの方が肥大症を持っておられますので、癌と肥大症が合併していることも大変多い。小さい癌が実はここにあってしかも肥大症もあって、前立腺全体が大きくなって尿道を圧迫して、先ほどの症状が出ている方もおられます。つまり私の申し上げたいことは、症状だけで癌を見つけることはできません。症状がある場合、肥大症だけなのかあるいは肥大症と癌が合併しているかもわからないから、それなりの検査をしないといけませんけども、症状がなくとも早期の癌を持っているかもしれないということを申し上げたい。症状の有無にかかわらずある一定の年齢、50歳ぐらいになると前立腺癌の心配があるということを少し頭に入れておいて下さい。

( slide No. 7 ) 前立腺癌の初期の場合には症状がありません。ところが放っておいてどんどん大きくなると前立腺全体が癌になります。そうすると尿道が圧迫されますから、中期の進んだ癌では先ほどの排尿に関する症状が出てきます。更に進んだ前立腺癌は転移をします。一般に一番転移しやすいのはリンパ節ですけれども、これは症状が出ません。次に転移しやすいのは骨です。これは前立腺癌特有で、骨盤、脊椎、肋骨という骨に大変転移しやすい。骨に転移してそれが進行すると、痛みが出ます。骨が痛い。骨が痛くて原因がどうもあまりはっきりしない、どうもおかしいという場合には、前立腺癌を少し頭に置く必要があります。

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この講演記録は、市民ボランティアの方々が録音から起こした筆記録のディジタルファイルをもとに作成されたものです。
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