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「がんの予防と治療」(前立腺癌)3
前立腺がんの診断
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( slide No. 13 )  さて、前立腺癌をいかに見つけるか、本題に入ります。早期に見つけるということですが、私たち泌尿器科の外来に前立腺の病気の方が来られた場合にどういう検査をするかと言いますと、順番はともあれ、最初にやはり直腸から前立腺を指で触ります。前立腺は直腸のすぐ前にありますので、直腸に指を入れますと前立腺を触ることができます。次に、超音波で前立腺を見ます。もう一つPSAという血液検査をします。このような検査で前立腺癌を見つけようという努力をしています。

( slide No. 14 )  直腸からこういう形で指を入れます。あまり気持ちのいい検査ではありませんけれども、私たちもゼリーをつけてそーっとやりますので、そんなに痛くありません。指で触るだけでわかるのかということですが、前立腺肥大症の場合はどちらかというと軟らかいですね。前立腺に触った感触を学生に教えるときに言うのですが、てのひらの親指の掌の堅さだといいます。私は痩せてますから堅いのですが---。癌は触ると堅い。

 どういう堅さかというと手の甲の関節部分の堅さです。では堅い感触のすべてが癌かというと、そういう方の 1/3〜半分弱で癌が見つかります。触診で必ずしも 100%見つけることはできません。それから前のほうに癌があると後ろの直腸から触ってもわかりません。それから、指で触るということにはそれなりの限界があります。非常に主観的ですね。最初の日に堅いと思っても次の日にはあれっ正常だなと、なかな かうまくいきません。進行した癌はすぐにわかりますが---。

( slide No. 15 )  超音波エコーで前立腺癌をかなりきれいに見ることができます。ただこれも腹部からの超音波では、前立腺は見えても癌があるかないかというところまではなかなか見えません。癌があるかないかを見るには、直腸から超音波の棒を入れてみないとわかりません。

 エコーで癌はちょっと黒く見えます。 cancer is blackと言います。超音波で、非常によくわかる場合もありますが、やはりなかなかわからない場合もあります。これも万能ではありません。黒く見えても実際に癌が見つかるのは2割ぐらいです。前立腺癌の半分ぐらいは黒くきれいには見えません。

( slide No. 16 ) 日本でも世界でも、早期の前立腺癌が非常にたくさん見つかるようになりました。それはPSAという非常に強力な発見方法が見つかったからです。皆さん、せっかくですからこの「PSA」という言葉を是非覚えてお帰りいただきたいと思います。これは前立腺から分泌される物質で、精液中に非常にたくさん出て、精子が生き続けて受精するための何らかの役割をしていると考えられています。そういう物質ですが、一部分血液中にも漏れています。ですから血液中のPSAを測定するとその値がでます。 女性の方は前立腺がありませんから、PSAは0です。

 そして癌のある人では血液に漏れ出てくるPSA量が上昇します。つまりPSAは前立腺癌の腫瘍マーカーということになります。他にもいっぱい腫瘍マーカーがありますが、他の腫瘍マーカーは体の中のいろんなところからちょっとずつ出ています。ある癌になるとそれがふえますし、癌でない場合にはそれは正常範囲です。このPSAは現在ある腫瘍マーカーの中で最も優れたマーカーだと思います。これは前立腺からしか出ませんので、女性は0ですし、手術をして前立腺を全部摘出した人も0です。こんな腫瘍マーカーは他にありません。これは大変優れた腫瘍マーカーです。

( slide No. 17 )  これを使って前立腺癌を見つけようと、世界中の泌尿器科の医者が頑張っています。PSAの正常値は4(ng/ml) 以下で、4以上の場合は異常と考えています。前立腺癌の人は全員4以上かというと、ちょっと残念ですが、4以下で前立腺癌を持っている人も実はいます。非常に小さい癌はたくさんのPSAを出せないのでまだ4以下です。でもその人の割合は、私どものデータでは最近の 190人ぐらいの前立腺癌のうちのたった10%です。この10%の中には治療をしなくてもいい、放っておいてもいいような癌の人が半分ぐらい混じっています。残りの90%の人はPSAが4以上です。PSAが高ければ高いほど癌は大きく、進行している可能性があります。PSAを測れば、治療しなければいけない癌の90〜95%を見つけることができます。PSAが4以下なら、指で触って堅いとかよほどのことがないかぎり、あまり心配しなくてもいいだろうということが言えるかと思います。

( slide No. 18 )  PSAが4以上で高ければ全て癌かというと、これも残念ながらPSAが上がる理由は癌だけではないんですね。もしPSAの上がる理由が癌だけなら本当にすばらしいのですが、残念ながらそうではない。

 肥大症でも少し上がります。ただ肥大症でも癌のある人の上がり方は高い。前立腺に炎症が起こった場合、熱が出るような急性の炎症の場合は大変高く上がります。これは炎症が治まると正常値に戻りますから、経過を見ればわかります。機械的刺激と書いてありますが、外来で指でちょっと触るだけならいいのですが、ごしごし触るとか、尿道に管を入れて導尿するとか、エコーを直腸から入れてやるとか、あるいは前立腺の組織検査をするとか、このような前立腺を刺激するようなことをすると一時的に上がります。これも時間がたてば元に戻ります。そういう点で非常に大きい肥大症を持っておられる方でPSAを1度測って4より高い場合に、癌との鑑別が問題になると思います。

( slide No. 19 )  PSAが高い場合にどれくらいの確率で癌が見つかるのか。4以上の人全員で考えますと、大体3割ぐらい、3人に1人ぐらいに癌が見つかります。PSAが10以上の場合には日本全国どこでも大体40%癌が見つかります。4〜10の場合は10%、10人に1人ですから頻度としてあまり高くないので、私たちはこの範囲の gray zoneと言っております。こんなふうに4以上では3人に1人、10以上になると2人に1人に近いぐらいですから、随分高い確率で癌を見つけることができます。考え方によっては直腸診とか先ほどのエコーよりもこのPSAのほうが癌を見つける効率、正診率とも言いますが、がいいということが言えるのではないかと思います。

 アメリカでは男性の癌の死因のうち、前立腺癌で亡くなる方が死因の1位、2位ぐらいに非常に多い。ですからアメリカではこのPSAが非常に広く知れ渡っていて、バーに行きますと、50歳、60歳ぐらいの人が友達とビールを飲みながら「困ったことになった。こないだのPSAが 5.5に高くなった。去年は 4.5だったのに、困ったなあ。」と、一般の市民の人たちがそういう話をたくさんしているそうです。実際に前立腺癌でたくさん亡くなりますから、前立腺癌を知らない人はアメリカでは本当に少ない。

 そういうふうに早期の癌が非常にたくさん見つかって、根治的な治療がされるようになりますと、アメリカでは前立腺癌がとうとう減ってきたと、今年あるいは去年ぐらいから言われています。PSAをうまく使うことによって、アメリカの前立腺癌はとうとう減ってきました。これはびっくりするような凄いことだと思います。こういうふうにPSAを使うことによって早期の癌を非常にうまく見つけることができると思います。

( slide No. 20 )  PSAがちょっと高い場合に、実際に癌なのかそうでないのかの診断するためには、やはり組織を採らなければ最終的な診断ができません。胃癌でも多くの場合は胃カメラを入 れて組織をちょっと取ってきます。膀胱癌でも、痛い検査ですが、膀胱の中をのぞいて組織をちょっと採ってくる検査をします。前立腺もやはり組織を採らないと最終的な診断はできません。エコー(超音波)ガイド下で、直腸から前立腺に針を刺して組織を採ります。
 最終的な診断のための生検です。

( slide No. 21 )  このときに、超音波で直腸から見ながら、点線のラインに沿って針が出てきます。右側の白いところの組織がとれます。 100%採れます。普通6〜8カ所ぐらい針を刺して組織を採ります。ちょっと痛いんですが。直腸は皮膚よりはあまり痛くないのですが、簡単な麻酔をしたりあるいは場合によっては「絶対に痛いのは困る」という方には入院していただいて絶対に痛くないような麻酔をしてやることもあります。

 直腸からですから菌が体内に入るのではないかと思われるかもしれませんけれども、消毒をしますし、予防的に前日に抗生物質を飲んでいただくと、熱の出る方はあまりありません。そうですね、200 人に1人ぐらいちょっと高い熱が出る方があります。総じて大丈夫かと思います。こういうふうにして前立腺癌を診断していきます。

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この講演記録は、市民ボランティアの方々が録音から起こした筆記録のディジタルファイルをもとに作成されたものです。
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